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最近の「敷引き特約無効」裁判

 去年に引き続いて、おもに関西において「敷引きを敷金から差し引く特約は無効」という判決が連発しています。 敷引特約は本当にすべて無効と見られるのでしょうか。


    マンションの賃貸契約の際、退去時に敷金を差し引くことを約束する「敷引特約」は無効だとして、堺市の男性(故人)が家主の不動産業者を相手取り、敷引金50万円を含む計63万円の返還を求めた訴訟の上告審判決が7月26日、大阪高裁でありました。

井垣敏生裁判長は、敷引特約を無効と判断して51万円の返還を命じた二審の大阪地方裁判所判決を支持し、業者側の上告を棄却しました。訴訟継承人の代理人弁護士は「上告審で敷引特約が無効と認められたのは全国で初めて」と話しています。

 今年2月の二審判決と昨年2月の一審・堺簡易裁判所判決によりますと、男性は平成13年に堺市内のマンションの部屋を月額8万3000円で借りた際、敷金63万円を業者に預けました。

 二審判決は、敷引特約について「自然損耗の修繕費用として関西で長年の慣行として認識されており有効だ」と認めたうえで、男性の敷引金額の妥当性について検討。「敷引金が敷金の83%、賃料の6ヶ月分以上に及んでおり、本来の趣旨を逸脱している」と判断したうえで、原告側が負担すべき修復費用を約12万円と算定していました。

この判決について代理人弁護士はホームページ上で、「敷引無効との司法判断が定着しつつあると評価てよいのではないか。」と言っていますが、それは間違いです。記事によれば裁判長は「敷金特約については・・・・有効だ」と明言しています。では何故今回の敷引特約が無効とされたのか、その理由は @敷引金が家賃の6ヶ月分だったこと。A敷引金が敷金の83%におよんだこと、の2点です。

 これと同じ考え方が、本年6月29日の大津地方裁判所の判決内容にもみることができます。  大津地裁の判決によると、女性が大津市内のアパートを月額6万3000円、敷金25万円で借り、約2年半住んで退去しましたが、業者は「敷引特約」を理由に5万円を返還しました。 阿多麻子裁判官は「敷金の80%を返還しないという特約は、賃借人の義務を不当に重くする」として、業者に全額の返還を命じました。 ここでも“敷引金が敷金の80%”ということが重く見られています。

 さらに、5月24日の大阪高等裁判所で、解約時の原状回復特約は無効とされた判決でも、15万円の敷金に対して1.8倍の26万6500円を請求したケースでした。「15万円の預かり金に対して26万6500円の請求では、“敷金より差し引く”との文言とは符合しない」と言っています。
つまり、どのケースも、敷金に対して請求分が高すぎるのが、無効とされた理由なのです。

 確かに最近の関西の傾向では、敷金(保証金)の額は募集条件の兼ね合いもあり以前より少額になりましたが、敷引金そのものは据え置きに近い金額になっているようです。その結果、敷金に占める敷引の割合が70〜80%にもなるケースが増えているのでしょう。

 最近の判例を見る限り、家賃の6ヶ月分や敷金の80%近い敷引き特約は、裁判になったときの歩は相当悪いと覚悟せざるを得ません。 関西においても敷引額は、家賃の3ヶ月分程度、敷金の50%以内とした方がよいと思います。  また首都圏においても原状回復トラブルを防止する意味で敷引き(敷金償却という場合が多い)が取り入れられ始めていますが、首都圏での慣習を考えますと、敷引金(償却額)は、家賃の1〜2ヶ月分程度、敷金の50%以内とした方がよいと思います。

 同じく敷引き制度の福岡では、首都圏で少なくなりつつある「礼金・敷金制度」の採用を検討している、というのですから皮肉な感じがします。

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