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あるオーナーからの相談事例

地方の「あるオーナーさん」から、アパート建築について相談を受けました。ハウスメーカーから建築提案を受けているのですが、「割に合うどうか意見が聞きたい」というのです。
ご一緒に考えてみましょう。

そのオーナー(Yさん)は土地を所有しているので、その土地にアパートを建築するという提案です。
まずハウスメーカーの提案書の内容を確認してみましょう。
場所は駅から徒歩10分で130坪の土地。
計画建物は木造2階建で建築面積は141坪です。
建築費は、本体と設備で7800万円にプラス、諸経費400万円で、合計は8200万円です。
間取は1LDKで42㎡となっていますから、まずまずの広さですね。
若いカップルや、収入のある単身者には人気のタイプでしょう。
その1LDKが10戸で、駐車場も10台分確保されています。
この地方でアパートの計画を立てる場合は、戸数分の敷地内駐車場の確保は必須条件です。
家賃の査定は6万円で駐車料は5千円です。この査定の85%で借上げる提案です。
8200万円の資金は、このハウスメーカーの提携ローンを組みます。
年利1.65%で30年返済という有利な条件です。

さて、これで条件は出揃いました。
もともと土地を所有している場合は、土地を購入した前提で収支を計算すべきなのですが、まずは建物だけの投資として「割に合うかどうか」を検討してみましょう。
詳しくは、別紙の計算書(今月は付録が付いてます)に書いてありますが、初年度の家賃は6万5千円(駐車料込)の10戸分の12か月分で780万円です。
(65,000円×10戸×12ヶ月)
その85%で借上げるので、Yさんの年間収入は663万円になります。
(7,800,000円×0.85)
そこに、「保険料」や「税金」や「原状回復費用」や「法定点検費用」「管理料」などの運営費がかかります。
その数値は査定家賃の20%として計算します。
(7,80,000円×0.2=1,560,000円)
そして、8200万円の借入金の返済が元利合計で、年間約346万円です。
差し引いた金額が、実際に手元に残るキャッシュフローで、年間で160万円ほどとなります。
もし、このハウスメーカーが30年間、この金額で借上げを続けてくれるなら、毎年160万円のキャッシュフローが、Yさんの手に確実に入ることになります。
「借り上げ」ですから、空室や滞納の心配をする必要はありません。

ちなみに、この土地にアパートを建てずに月極駐車場として運営すると、5000円の駐車料で20台として、年間120万円の収入です。稼働率は9割として108万円です。
この数字は一応の目安になりますね。
もっとも駐車場経営では、固定資産税の軽減や相続税の評価減はありませんから、税金対策にはなりません。これも考慮に入れて考えます。
160万円は30年で4800万円になりますから、土地を提供して全額借入れで行った事業としては「割が合う」と思います。
30年後に建物を取り壊しても、土地は残ります。
高額の立退き料負担のないように「定期借家権」を上手に使うのがコツです。

では、Yさんには「この計画は割に合いますよ。ぜひ実施してください」と言えばいいでしょうか。
それほど単純ではありませんね。
まず、このハウスメーカーが初年度と同じ金額で「30年間」も借上げてくれるのでしょうか。
それは契約内容を見ないと分かりませんが、常識で考えると「難しい」と思います。
新築時6万円の家賃が30年間保てるはずはありません。
85%ということは5万1千円で保証していることになりますが、実際の募集家賃が5万円を切るのに 15年もかからないでしょう。
と、いうことは、満室稼働でも15年後からはハウスメーカーは赤字になってしまいます。
そのような「慈善事業」を続けたら倒産してしまうかもしれないので「難しい」と判断できるのです。
「一括借り上げ」は「数年ごとに賃料を見直す」のが一般的です。
「どのくらい見直すのか」は、実際の稼働率によりますので、立地や建物・設備の計画性の高さが重要なのです。
ですからYさんへのアドバイスの一番目は、「提示された借上げ条件ではなく、計画された建物が、長い間、借主のニーズに応えられるかどうか、で判断すべき」ということになります。
万が一、ハウスメーカーの手を離れてYさんの「自主管理」となった場合でも、地元の管理会社の協力を得ながら、良好な賃貸経営が続けられるような「計画の質の高さ」かどうかが、最も大切な要件です。

別紙の計算書は、5年ごとに5%ずつ、借上げ賃料が下がる想定で計算してあります。
6万円だった賃料が25年後に4万5千円になる想定です。
30年間のキャッシュフローの累計は約2475万円になります。
年平均では82万5000円です。月極駐車場と比べると迷うところですね。
でも前述したように税金対策の側面がありますし、駐車場だって需要があるかどうか分かりませんから、一概に数字だけの比較で「駐車場経営の方が楽」とは言えません。

さて、もし土地も新たに購入して、今回の計画を実施した場合はどうなるでしょう。
Yさんの土地は「坪30万円」と評価されるとして3900万円が必要になります。これも全額借入れると総額 1億2100万円となります。
その計算が、もうひとつの表です。
初年度からキャッシュフローが赤字になっていますね。
30年間で「持ち出し」となる現金は2470万円にもなります。
事業の体(てい)をなしていません。

もちろん、2470万円が消えてしまうのではなく、3900万円と評価された土地が残ります。
それにしても・・・・・・ですね。

さて、Yさんには何と答えましょうか。
Yさんが土地の活用方法を模索しているのなら「貸駐車場」という選択肢もあります。メリットは、投資額が少なく出来るので、気軽ですしリスクも低いです。上手くいかなければ転用もききます。
年間100万円前後の現金を残せる可能性はあります。コインパーキングが成り立つ場所なら、もっと収益を上げることもできます(立地的に厳しいと思いますが・・・)。
デメリットは、固定資産税や相続税の対策にはなりません。土地の有効活用策としては消極的すぎますね。
アパートの建築は、ハウスメーカーの計画を評価したところ「計画次第」で成り立つことが分かりました。
しかし、「一括借り上げ」はひとつの選択肢として捉えた方がいいでしょう。
重要なのは、長期にわたって入居者のニーズに応えることができる「計画かどうか」です。
「一括借り上げ」だからと言って、それを無視した計画では、安定した収入は担保されません。
地域の需要と供給のバランスを考えた上で、間取りや設備や外観や構造タイプを考えるべきです。
そういう意味では、「42㎡の 1LDK」という今回の間取計画は、インターネットでの簡易調査ではありますが、需要よりも供給が少ない傾向が見て取れました。
つまり「住みたい人は多いけど、物件は少ない」という状況です。
あとは、この間取のターゲットである、「カップル」と「収入のある単身者」が望むと思われる設備は「すべて」付けるような計画とすべきです。
そして建築費を算出し、別紙のような計算をして、必要なキャッシュフローが残せるかどうかを検討するのです。

このアドバイスを聞いて、Yさんはどんな決断をするでしょうか。
「30年一括借り上げ」を信じて、そのハウスメーカーに依頼するのでしょうか・・・・。

 

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