短期賃貸借を廃止へ 〜規制改革会議最終答申決定〜


 小泉純一郎首相の諮問機関「総合規制改革会議」(議長=宮内義彦・オリックス会長)が最終答申をまとめた。重点6分野のうち「都市再生」分野では、短期賃貸借制度について、廃止を基本とした見直しをするべきとした。同分野ではこのほか、借家制度の改善なども求めた。今年7月決定の改革基本方針で挙げられた、不動産の媒介契約における両手仲介の禁止、仲介手数料の完全自由化などは答申に盛り込まれなかった。この答申は、来年3月にまとめられる規制改革推進3カ年計画に反映される。

    短期賃貸借制度の見直しは、競売の実効性を確保するためだ。同制度は執行防害の代表的な手口として悪用されている。
 答申では、「抵当権に後れる賃借権で事前に抵当権者が合意しないものは競売実施後の存続を一切認めないなど、廃止を基本として検討すべき」とした。
 法制審議会では現在、民法を改正し、同制度廃止に向けた検討を行っている。法務省によると「完全廃止ではなく、バリエーションを持たせたりと、現在とは異なる制度にする可能性もある」(民事局)としている。平成14年度中に改正法案を国会に提出する見通しだ。

“重説”再整理
 不動産流通制度については、中古住宅の耐震性能検査や入居後の定期検査など、宅建業務の範囲を超える高度なサービスに対応できるよう、専門性を持つ組織や専門家との協力促進が重要とした。
 このため、宅建業者の業務、責任の範囲を明確にした上で、それ以外のサービスのあり方について検討すべきとした。
 あわせて複雑化している「重要事項説明」について優先度を考慮した再整理を求めた。
 国土交通省は「仲介業が曲がり角に来ていることも確か。社会資本整備審議会の分科会で、まず検討することとなりそうだ」(不動産業課)という。

借家制度の改善
 借家制度についても改善を求め、居住用建物で、当事者が合意した場合には定期借家権切替えを認めるべきとした。
 また、定期借家契約締結の際の書面による説明義務の廃止、居住用定期借家契約で強行規定となっている借主からの解約権廃止について、その是非を含め検討を求めた。
 借地借家法上の正当事由制度に対しても、建物の使用目的、建替え、再開発など付近の土地利用状況の変化などを反映した客観的な要件とすることや、立ち退き料の位置づけ・あり方を検討するべきとした。

 さらに、長期の定期借家契約の普及促進のため、1カ月とされる賃貸の仲介手数料について、実態の調査・分析を行い、そのあり方の検討を求めている。
 法務省は「定期借家制度は施行後4年をメドに見直すことになっており、あわせて、正当事由制度などについても見直す。まず、問題点の洗い出しをして、方針を決めたい」(同)としている。
 重点6分野では、このほか「環境」分野で、市街地の土壌汚染の調査や浄化などの対策、汚染原因者不明の場合の支援措置などについて、次期通常国会での法案提出を含めた検討を求めた。環境省は「まだ、審議会で内容を検討中」としている。
    
評価額リスト公開間近〜適正賃料の認識必要に〜


 大家さんが、マンションの入居者に対して、「次回の更新時期から、賃料を2000円上げさせてもらいます」と通告した場合、入居者から、「このマンションの評価額からすると、2000円アップはとても納得できません」などと反論されたらどうでしょう。
 現在、固定資産税の算定基準となる土地、建物の評価額は、各市町村の課税台順に掲載されており、現行制度のもとでは、納税者だけが自分の所有する資産に限って閲覧できることになっています。
 ところが、平成13年11月24日、政府税制調査会において、土地・建物の所有者のみならず、そうではない単なる借地・借家人についても閲覧を可能とする制度改正を行うということが合意されました。政府の情報公開の拡大の流れの一環として行われる改正です。
 もっとも、借地・借家人が閲覧できるのは、課税台帳とは別個に作成される「評価額リスト」に限られるということです。
 ただ、いずれにしましても、自分の地主や大家さんが、どの程度の固定資産税を納めているかを、自由に知ることができることになるわけですから、これにより、借
地・借家人に対して現行の家賃・地代の適正さ、家賃・地代の値上げ要請に対するチェックするための一つの武器が与えられたということになります。
 とはいっても、そのような制度改正に対して敏感にアンテナを張り巡らせいてる入居者、借地人ばかりとは限りませんので、直ちに、大家さん、地主さん側がそんなに過敏反応することはないかもしれません。しかしながら、数年前、民事訴訟法が改正され、簡易裁判所の少額訴訟制度が創設され、暫く経った後に、週刊誌で、「裁判所に訴訟費用を取り返しに行こう!」などといった特集が組まれたことも影響して、原状回復を巡る争訟が増えたのも事実です。
 ですから、借地・借家人に対して、自分が賃借している土地・建物の評価額の閲覧が本格的に認められた場合(総務省は、2002年の通常国会に改正案を提出し、2003年から制度の導入を検討しているようです)、家賃はともかく地代の値上げがしにくくなる可能性は否定できないでしょう。冒頭のようなやりとりがなされるのが現実になる日もそう遠くありません。大家さん、地主さんは、同時に設けられる土地・建物所有者に対する、同じ市町村内の「評価額リスト」を公開する制度を利用し適正賃料とは何かを認識しなければなりません。


    
家主の固定資産税評価額、借家人も閲覧可能に


 土地・建物の固定資産税評価額が、2002年度から借地・借家人にも情報公開されることが24日固まった。政府税制調査会が、土地・建物の所有者に課せられる固定資産税の評価額について、直接的な納税者ではない借地・借家人でも市町村に足を運べば閲覧可能にする制度改正で合意した。自分の地主や大家が、どの程度の固定資産税を納めているかが自由に閲覧可能になることで、家賃や地代の不当な値上げをチェックできるようになるなどのメリットが期待される。
 固定資産税の算定基準となる土地・建物の評価額は、各市町村の課税台帳に掲載されており、現行制度では、納税者だけが自分の所有する資産に限り閲覧できる。

 今年末の税制改正で創設する情報開示制度は、賃貸アパートの住民などでも、その敷地・建物の評価額を閲覧、チェックできるようにする。閲覧できるのは、課税台帳とは別に作成される「評価額リスト」に限る方針だ。
 地価の下落で評価額が下がれば、借家人は大家に対し、家賃値下げ要求がしやすくなる。また、固定資産税が下がった場合、それに気づかない借家人も、市町村役場に細かに足を運び、自分でチェックすれば家主による不当な値上げなどに抵抗する根拠ができる。総務省は同時に、土地・建物の所有者に対して、同じ市町付内の「評価額リスト」すべてを開示する方針だ。周辺物件と比較することで、保有資産の評価額や家賃などが適正かどうか判断する材料を提供する。

 今後、プライバシー侵害に関する各省庁問の調整を進め、来月まとまる与党税制改正大綱に盛り込まれる見通しだ。
 総務省は2002年の通常国会に地方税法の改正案を提出し、3年に一度の評価替えが行われる2003年度から新制度を導入したい考えだ。


    
「借家権の相続」死亡・離婚・蒸発の場合は?


 自分が管理する賃貸マンションの大家から相談を受けたと、その仲介業者は語った。
 「ある夫婦に貸していたところ、その夫がつい最近、病死したらしいんですけど、夫名義で貸していた住居なんで、妻がそのまま住み続けることについては拒否できるのでは、と質問されまして」
 人の不幸に付け込むような嫌な相談だとは思いつ、確かに、名義人が亡くなって、たとえ妻であっても名義人の名前を変更するのであれば理屈は通らないでもない。

 結局彼は、どう答えてよいのか分からず、自分では結論を下せないまま、弁護士のところに相談に行ったという。
 すると弁護士からはまず、借家権の相続と譲渡についてきちんと理解していますか、と逆に尋ねられてしまったという。「でもそう尋ねられて、自分が何を疑問にしているのか、問題の本質は見えたような気がしました」

 家族に住居を貸している揚合、名義人である夫が死亡するケースだけでなく、離婚して別の場所へ転居したり、それこそ蒸発して行方不明になることもある。その場合、妻や子どもが引き続き居住し続けることはままあることだ。その各ケースにおいて、借家権は相続されたと見なすのか、それとも譲渡されたと見なすのかを、まずは大家としてきちんと判断しなければいけないというのである。
 「そう考えると、死亡の場合は分かりやすいでしょ、って弁護士に言われました。民法の898条によって、死者の権利は、死者の生存中だけに存在するような特殊な権利を除いてすべて相続人に引き継がれるというのが法律らしいんですよ」
 借家権も1つの財産権だから、相続人に相続される。したがって、夫の死亡を理由に契約の解除はできないことになる。

 それでは、離婚の場合はどうなのだろうか。
 「弁護士が言うには、この場合の解釈は2つあって、1つは、借家権は賃借人である夫だけでなく居住している家族全体との間で結ばれたものであって、形式上の名義人である夫から妻への変更があっても借家権はそのまま継承されるという考え方で、もう1つは、離婚によって夫婦はまったく独立した関係になるので、借家権は譲渡されたとみなすという考え方というわけです」
 裁判所は通常、後者の判断をとって、離婚の揚合は借家権は譲渡されたとみなすだろう、というのが弁護士の意見だった。けれども、離婚によって賃貸借契約に特別な背信行為があったわけではないので、それだけを理由に契約の解除はできないだろうということだった。

 だとすると、蒸発の場合はどうなのか。
 「名義人がそこにずっと住まないというのは、背信行為の一種ではないかと思ったのですが、これも弁護士からは否定されました」
 蒸発した場合、夫には借家権を積極的に放棄するような意思はないでしょう、と弁護士は言ったらしい。単に不在が続いているだけであって、つまりそれは分かりやすく言うと、長期の出張と同じ状況なわけだ。
 つまり蒸発中は、借家権は相続も譲渡もされずに、夫名義のまま賃借関係がずっと継続されているというのが弁護士の説明だった。
 「こっちが宅建主任者っていうだけで、法律については何でもプロって大家さんは思ってますからね、最低限のことはきちんと理解していないと、いざという時にはほんと恥をかいちゃいますよ」
 彼はそう言いつつ苦笑いした。



    
「自然減耗負担特約」を否認〜原状回復義務と判例〜


 賃貸住宅などの契約期間が終了した際に、賃借人の原状回復義務と敷金(保証金)の返還について紛争となるケースが多い。賃借人が居住している間に自然減耗した畳、壁のクロス、冷暖房機などを入居当時のように回復する費用を貸主、借主のどちらが負担するのか、その解釈が争いとなる。
 金銭が絡む話だけに、賃貸住宅などを斡旋(仲介)する不動産業者としても紛争を避ける事前防止策として、契約時に原状回復義務に対する十分な説明のほか、入居時の部屋の写真を撮影しておいて退去時との違いを検証するなどのアドバイスを行っている。

経年劣化は対象外

 一般的に借主は、退去の際に自らの費用で賃借した部屋などを入居当時の原状に戻す義務がある。例えば絵画を飾るために壁面に取付金具用の穴を開けたとか、部屋の中で野球の素振りを繰り返して畳を通常生活以上にすりへらした場合などは借主がその回復費用を負担する。しかし経年劣化による自然減耗についてはこの限りではないとされる。直射日光による畳の日焼け、冷暖房機の減価償却による価値の減少、通常生活による畳の劣化などについては賃貸借契約の対価である家賃(賃料)に含まれるものであって借主が負担するものではない。
 自然減耗も借主が負担するとする特約を定めることは可能だが、案文次第ではそれが認められない場合がある。昨年大阪で裁判となった事案(大阪高裁00年8日22ロ第5民事部判決)も、この特約の有効性について争われたものだ。

特約と一般義務

 事案の概要は、借主が96年3月に大阪府内のマンションの賃貸借契約を締結した際、「借主は賃貸借契約が終了した時は借主の費用をもって本物件を当初契約時の原状に復旧させ、貸主に明け渡さなけれはならない」との特約を定めたうえで借主は、「明け渡し時に特約により本物件を当初の契約時の状態に復旧させるため、クロス、建具、畳、フロアなどの張替え費用、設備器具の修理代金を実費にて精算する」との覚書に署名・押印して仲介業者あて交付したというもの。そして退去時に借主は、貸主から敷金を超える原状回復費用を請求され、この特約の解釈をめぐって争いになった。裁判は簡易裁判所、地裁で特約の有効性が認められたが、大阪高裁はこれを破棄差戻しとしてその後和解となった。

 大阪高裁は、特約は「契約時の現状に復旧させ」というものであるから、契約終了時の賃借人の一般的な現状回復義務を規定したものとしか読むことはできないとしたうえで、特約には借主が通常の使用による減価も負担することを規定していないと判断した。そして覚書は特約を引用したものであるから、これをもって自然減耗の費用負担を定めたものとは言えないと判断。覚書は負担すべき費用の精算方法を定めたものとした。
 自然減耗の減価負担特約を規定するにあたって、参考になる判例としてこのほかに、条項内容は入居当時と全く同じ状態に戻す義務や通常生活による減損の負担を定めたものではないとした最高裁68年1月25日判決、名古屋地裁90年10月19日判決などがある。



    
手抜き工事が原因で床下から大量のハエが発生。


 「床が傾いている」「床下をめくったらゴミだらけ」といった欠陥住宅が以前メディアで取りあげられ、話題となったことがあった。その多くは戸建て住宅だったが、賃貸住宅業界でもトラブルはある。数年前に発覚したある事件を例にあげ、防止策を検証してみる。

中堅ゼネコンに設計・施工を依頼
 「床下から大量のハエが発生している。なんとかしてくれ」
 平成5年の夏、都内在住の佐藤太郎オーナー(仮名)のもとに入居者からクレームの電話が入ってきた。
 平成3年に230坪の所有地にRC造4階建てのファミリー向け賃貸マンションを建設。中堅ゼネコンに建築を依頼、建物自体も赤レンガ風の外壁タイルが特徴的で、佐藤オーナーにとっても自慢の物件だったという。
 しかし竣工3年目にして、とんでもないトラブルに巻き込まれてしまった。

 電話を受けた佐藤氏は、すぐさま物件へ駆け付けると、床下収納の下から確かにハエが出ている。床下をめくると、そこには大きな水たまり。夏場その水たまりが温床となり、害虫が発生したことが、すぐ理解できた。
 すぐさま建設会社に連絡し「どういうことか説明しろ」と詰め寄ったところ、「恐らく配管が詰まりそこから漏れたのでしょう」の回答。しかし、不安を感じたオーナーは詳細な調査を行うよう交渉した。3カ月後送られてきたレポートを見て、工事のいいかげんさに同氏は驚いたという。

 原因は、ユニットバスの排水管が、下水管へとつながっていなかったという単純なミス。そのほかにも1階と2階で計3室のユニットバスの排水管もはずれていた。それらの下水が1階の床下にたまり、今回のトラブルに発展したのだ。「ハエの大量発生」ならまだしも、これだけ水滴れの箇所があれば、建物全体に不具合が生じていた。パイプスペースや階段下のピットにも水がたまり、外壁はコンクリートの継ぎ目から水が噴き出し、白華現象を起こしていたという。
 今回の一件は、完全に建設会社側のミスということで、全箇所を無償で修理。そのうえこのことが原因で生まれた空室については家賃を保証するという提案をしてくれたことで、オーナー側の出費はゼロ、大きなトラフルに発展することはなかったという。

 欠陥住宅に詳しいスズキ建築設計事務所の鈴木明社長はこう話す。
 「建設会社は、設計施工を一手に行っているところが多いと思います。正直なところ設計図通りに施工されているかどうかは、オーナーにはわかりません。はっきりいってそれをチェックするのは不可能。したがって出来上がってみて、信じられないような手抜きが見つかるというケースが多いのです」
 例えばオーナー白身、施工現場を見学に行きチェックすればいいという意見もあるが、この点について鈴木氏は、「施主が見に行くことで、チェックされているというプレッシャーを与えることはできますが、逆に″手抜き″を助長させる可能性があるのです」と異論を唱える。

 例えば打ちっ放しの外観のマンション建設中に、最も重要なコンクリート打ちをオーナーが見学したとする。真っ平らできれいになった方がいいと施主側が思うと施工側は考え、セメントと水の比率を変えてしまう。
 「つまり水を多くして見た目を良くするのです。当然のように強度は下がり、欠陥商品になりかねないのです」(同氏)
 ではどうすれば、手抜き工事を事前に防ぐことができるのだろうか。
 「設計と施工会社を切り離すのはベターですが、なかなか難しいことでしょう。無理であれば、定期的にレポートを提出させるだけでも効果はあると思います。例えば『コンクリート調合表』や『現場採用コンクリートの試験成績表』などです。
  しかし、素人が見てもわかりませんので、これを設計士といった第三者にチェックしてもらうのです」(同氏)
 つまり、誰かしら第三者が目を光らせているという状況を施工会社に認識させるだけでも違うのである。


    
大都市圏の賃貸動向、家賃下降つづく。


 MRD不動産情報センターがこのほどまとめた大都市圏の賃貸動向(01年秋)によると首都圏、近畿圏、中京圏ともに供給過多傾向が継続し、家賃の下降傾向も続いている。
首都圏は、学身者用で53.8%、ファミリー用で64.0%が供給過多と回答。前回調査(同2月)と比較すると単身者用で供給過多が8.3ポイント減少したもののファミリー用では同3.1ポイント増加した。
 家賃相場は、前回と比較し単身者用、ファミリー用ともに低下傾向をたどっている。
 近畿圏は、単身者用、ファミリー用ともに供給過多を継続。単身者用が前回調査並みの65.6%だったのに対し、ファミリー用が同8.9ポイント増の70.9%と大幅に増えている。家賃相場は下降傾向を継続した。
 中京圏は、単身者用、ファミリー用ともに供給過多が増加した。家賃相場も横ばいが減少し、下降という回答が増加した。


    
投資用ワンルームマンション最前線。


 投資用ワンルームマンションの販売が好調だ。バブル景気のころ、一時大ブームとなったワンルームはいったん完全に火が消えたかに見えたが、ここ数年、急速に息を吹き返し、現在は首都圏だけでも年間6000戸とかつてのピーク時に接近しているという。異常な低金利状態が続く中、5%前後という高い利回りが注目されていることに加えて、企業のリストラなどによって放出された都心の好立地物件が続々誕生していることが人気の理由のようだ。


    
投資ワンルーム、増え始めた「現金買い」。


 好調な売れ行きが持続しているといわれる新築ワンルームマンションの販売現場で、ローンを組まずに即金で購入する顧客が増えている。「物件によっては4割に達する」という分譲会社もあるほか、ローンを組む顧客も以前より多額の自己資金を投じるのがここにきての傾向。背景には低金利で投資先を深しあぐねている現金があると見られ、分譲会社にとっては顧客層の拡大につながる追い風になっている。

 年間200戸台をコンスタントに供給する京和建物では、ここ1年余りの顧客のうち即金で物件を取得する割合が「平均でも2〜3割、物件によっては4割」に増えた。以前と違って信販会社も融資には積極姿勢を取っているため顧客の取得環境は好転しているはずだが、「現金取得の割合は逆に増える一方」。
 同社ほどではないものの、供給量トップの菱和ライフクリエイトでも「正確にカウントしたことはないが、顧客数にして最低でも1割。即金買いの顧客は1人で複数戸を購入するケースも多いので、戸数ベースでは2割に迫る物件もあるのではないか」と見る。エフ・ジェーグループでは「従来、あまり目立たなかった即金による取得が増えてきたのはここ1年ぐらいの共通した傾向。全体では1〜2割を占める」と同社の販売状況を分析している。

 こうした顧客層が増えているのは、「低金利の金などを敬遠した現金が、ワンルーム市場にも流れ込んでいる」ため。また、金融不安や企業の経営構造改革などの影響も見られるという。
 即金で取得する顧客のなかには満期を迎えた高金利時代の郵便貯金や相続した資産をワンルーム投資に振り向ける人だけでなく、積立式の生命保険を解約してワンルーム投資に乗り換えたり、退職金制度の変更で毎月の給与に加算して先取り受給している退職金を投資に振り向ける大企業のサラリーマンなども目立つ。

 さらに、従来は総額に対して1〜2剖程度の自己資金で取得するケースが多かったローン購入者も、「最近は自己資金の絶対額が増え」約2000万円の物件に対して800万から1000万円を用意している顧客も多くなっているのが特徴だ。
 首都圏の新築ワンルームマンション市場は、立地が都心にシフトしていることや価格の低下で供給量が増大。年間では約5000戸が見込まれるなど、5年前の3倍程度にまで膨らんでいる。販売状況も好調と見られ、30〜40代の年齢層が将来の年金代わりに購入するなど、顧客層が拡大しているといわれている。


    
プロしか知らない泥棒の心理。


 「蛇の道は蛇」という言葉がある。警視庁、警察庁では侵入盗の被疑者に対してアンケート調査を実施している。その結果からは、泥棒にしか分からない泥棒の心理が明かにされた。彼らはいったいどういった視点で物件を選別しているのだろうか。検証してみた。

侵入しやすさ第1位は外階段

 警察庁が行った被疑者への調査を社会安全研究財団がまとめている。その結果、階段の位置によっても入りやすさは違うことが明らかになった。外階段の場合、他のタイプの階段に比べて「やりやすい」とした回答が68%を占めダントツ1位になったのだ。理由として「外部から侵入する時の足場になる」が27%で第1位となっている。
 笠間産業(東京都足立区)では実際に事件がおきた。4年前、国道沿いの交差点にある13階建て分譲賃貸マンションでのこと。犯人は7階にあった家賃12万円の2DKのベランダに非常階段から飛び移り、ガラスを破って侵入したという。入居していた30代の男性は家に現金が残してなかったために、革製のジャンパーが盗まれた。この事件をきっかけに退去したという。

 なお、外階段での犯行がやりやすい理由としては他に「施錠していない事が多いので侵入しやすい」が22%、「住人の動きが分かりやすく安心」が20%となっている。
 廊下の形状では中廊下よりも外廊下のほうが「やりやすい」とするものが88%に及ぶ。

危険性では最上階が1位

  犯罪者は物件のどこから侵入するのか。「1階が危ない」。多くの人はそう考えているが、実は最上階が一番危ないというデータがある。窃盗犯も賃貸住宅の最上階にオーナーが住んでいることをわきまえていて、たいていの場合その物件内で1番実入りがいいと考えているからだ。最上階は人目につきにくいというリスクの少なさもある。都市防犯研究センターがまとめたところでは6〜10階建てでの侵入率は1階が17%、最上階では28%、最上階の下の階では14%となっており、11階建て以上ではそれぞれ8%、16%、18%となっている。

 美都(東京都豊島区)では2年前に駅から7〜8分のところにある4階建ての単身者向けマンションで、最上階の部屋が荒らされ、数万円が盗まれたケースがあった。この物件はオートロックがなく、自由に物件内に侵入できたという。犯行時間は入居していた20代男性が留守にしていた昼間のこと。犯人は共用階段で最上階に行き、そこから点検用のはしごを上って屋上に出た。そこから最上階のバルコニーに下りてガラスを破って侵入したという。
 このような4階建てでの4階侵入率は22.7%と2階と並んで2位となっている。また、3階〜10階建ての物件では屋上などを経由した侵入が約3割を占めている。データを参考にいまいちど見直しをしてほしい。

    
高齢者向け賃貸、入居支援の輪拡大。


  10月1日からいよいよ高齢者を受け入れる賃貸住宅の登録がスタートする。これによって今年8月に施行された「高齢者居住安定確保法」が本格的に始まることになる。今後どのようになっていくのか。始動を目前に控えた現在の状況を追った。

都道府県の知事が認定

 10月1日より開始されるのは、賃貸住宅の登録制度だ。「高齢者居住安定確保法」では高齢者単身、夫婦世帯の入居を拒まない住宅を確保するために登録制度を設けた。各都道府県が窓口となる。
 内容はその住宅の物件名・場所・戸数・規模などだ。基本的に特別なバリアフリー設備等は必要な条件とはなっていない。一般賃貸住宅であればいいとされている。
 この申請が認められれば知事の認定を受けられる。この情報は登録簿にまとめられ、公開されるしくみだ。
 最近の状況を東京都に聞いた。「テレビや新聞で取り上げられたことからこの法律についての問い合わせが頻繁にあります。ただし、まだ内容についてはあまり知られてはいないようです。オーナーの不安を解消するための仕組みなどがありますのでよく和ってほしいと思います」(東京都庁住宅局開発調査部住宅計画課高齢者住宅係)

 そのポイントのひとつがが滞納保証だ。
 高齢者の入居を敬遠する傾向は業界内に根強くある。その原因の大部分を占めるのが、賃料を支払えるのかという不安からくる。十分な年金や預貯金があればいいが、何かあったときに滞納されては困るというのだ。そこで、国は6ヵ月間までの滞納家賃の債務保証を行うことになった。国費20億円を投じた「高齢者居住支援センター」がそれだ。2年契約の場合、入居者は賃料の一定額(おそらく1カ月分の賃料の35%前後)を入居時に支払う。もし家賃の未払いがあった場合にはこの約30%〜40%前後の掛け金で債務分を賄うとされており、国費20億円は損失があったときの補てんに使われる。
 現在、高齢者住宅財団がこの支援センターの認定を受けるとみられている。

 居座りについての対策も立てられた。「もし延滞されて居座られたら…」という心配があるからだ。このシステムでは登録住宅で滞納があった場合には、まずオーナーが文書で督促する。この証拠があってはじめて支援センターは債権の渡譲を受ける。この後、センターから入居者へ求償が行われる。それでも払わない場合には、債務不履行を理由とした契約解除に持ち込めるのだ。
 「もし滞納・居座りとなれば一般的な入居者と同じように法的なな対処ができます。これによってオーナーのリスクを減らす効果は大きいと考えています」(国土交通省住宅局住宅総合整備課高齢者住宅整備対策官)


    
高齢者住宅安定確保法、登録制度スタート。


  高齢者が安心してアパート、賃貸マンションヘ入居可能なビジネスシステムや、法律・制度の輪が官民挙げて広がっている.連帯保証人がいない、支払い能力が低い、介護発生時の対応が難しいなどを理由に、高齢者の入居は拒否されがちだが、こうした懸念を取り除き、安定居住を積極支擾する試みだ。この8月には「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が施行、関連業にとって、高齢者入居は少子化に伴う空室解消策としても見直しが焦眉(しょうび)の急となっており、新たな事業機会を創出する有望な分野でもある。高齢者が定期借家契約を生かして自宅を貸し、その家賃収入で快適な賃貸住宅へ住み替えるといったニーズに対応する企業単位の動きも活発化してきた。

 高齢者の4人に1人が賃貸住宅への入居を断られている実態が、昨年時点での調査ではっきりした。「体の衰えや病気になった場合の対応が難しい」(62%)、「オーナーの希望」(54%)、「失火など安全管理面で問題」(46%)、「保証人がいない」(38%)、「高齢者配慮の構造・設備が整っていない」(30%)、「家賃滞納が心配」(19%)などが断りの理由だ。
若者より優良客
こうした傾向に対し、関係者は「高齢者=要介護・弱者は誤った先入観。実際には自立した元気な高齢者が多く、家賃支払い能力も、資産ストックや年金などが後押しとなり、若者より高い。入居支援システム次第で連帯保証人問題や、病気・入院・介護の発生時の問題も解決する。高齢者入居斡旋に限定すれは、入居者の物件内での死去も『死ぬまで入居できた』というプラス材料にさえなる。まさに優良客だ」と高齢者の入居受け入れは、商機拡大に大いに結び付くと強調する。

 少子化の進展で『満室稼働』がますます難しくなる点でも、高齢者の受け入れ拡大は必然の成り行きのようだ。賃貸住宅オーナーを軸とした集まり、東京共同住宅協会の高橋茂会長は「入居者を年齢だけで選別するのには疑問があるし、経営上もそんな余裕はなくなった。東京だけで30万戸もの空室があるといわれるが、その解消・が最優先だ。民生委員だった経験からいうと、高齢者は家賃滞納をしないし、いざとなったら公的な家賃補助制度もある。身元保証さえあれは、いいお客さんだ」という。
会員拡大も視野

 「高齢者安定居住法」が8月5日、施行された。高齢者向け賃貸住宅の供給促進と、民間賃貸住宅への円滑な入居環境の整備が狙い。高齢者の入居を拒まない「賃貸住宅の登録・閲覧制度」の創設(都道府県ごとに実施)や同登録住宅を対象にした国(高齢者居住支援センターの基金)による滞納家賃保証が目玉だ。また、東京都がひとり暮らし高齢者と家主の双方に利点のある身元保証制度「いきいきらいふ住宅制度」の創設(資産預託方式などに基づく入居と生活継続支援サービス)を検討するなど、行政による高齢者入居支援の動向が目立つ。