都会の住宅地の中にアパートを所有しています。これまでは、とくに理由もわからず、「敷金2カ月」といって預かっていました。ところが最近は「敷金ゼロ」とか、「保証金」といって預かり、立ち退くときは「2カ月分償却」といって差し引いて返すなどの例もあると聞きます。いったい敷金とは、本来どういうものなのでしょうか?借家人と合意すれば、その有無とか金額の多少は自由に決められるものなのでしょうか?また、それなら、これからの家主として、どんな形でどれくらいの金額を預かるのが有利なのか、その辺をご教示ください。
 借家関係では、敷金がやりとりされるのが常です。ところが、この敷金について、法律は直接規定を設けてはいません。結果事実が先行し、借家人の家主に対する借家関係上の債務を担保するための手段として、敷金がやりとりされてきたわけです。
 したがって、判例とか学説からこれを集約しますと、敷金とは「建物賃貸借関係において、契約のさい、借家人の家主に対する借家契約関係から生じる債務の預託される金員で、契約終了のとき、借家人の債務で不履行のものがあれば、それは敷金から差し引かれ、不履行がなければ借家人に返還されるべき預託金」と解されています。
 しかし、上のように概念づけても、「敷金とはかくあらねばならない」といった法律があるわけではありませんから、当事者の特別の合意でいかようにもその内容は変えられます。

 そこで以下、どんな内容の敷金にしたら、これからの家主さんにとって有利かを具体的に究明してみることにしましょう。

 @ 「敷金ゼロ」の当否
 もちろん、家主と借家人が合意すれば、敷金をゼロにすることは自由です。しかし、これは借家人にとり契約のさいの負担が減少し有利ではありますが、家主にすれば、無担保でお金を貸すのと同様、不利です。
 したがって、借家人を誘致するのに甘い餌となっても、家主の立場になれば、できれば避けたいところです。
 もっとも、(イ)借家人に十分な資力があって不履行の心配などが非常に少ないとか、(ロ)借家人には有力な保証人が立ち、万一の場合この保証人に責任をとらせることができるとかの場合なら、敷金ゼロでもかまいません。

 A 敷金額の多少
 敷金額も当事者が合意すれば自由に決められます。多額なら家主に有利なことは当然ですが、そのため、「そんな高い敷金ならヤーメタ!」と借家人が寄りつかないマイナス面もあります。
 なお、借家人の窮状につけ込んで不当に高い敷金をとることは、暴利行為とか公序良俗違反で無効とされます(民法90条)。

 B 敷金の償却
 かつては、東京都心部のアパート、マンションなどで「10カ月分の家賃相当額の敷金、契約終了時にうち2カ月分を償却、8カ月分返却」などの形の敷金がかなりやりとりされたようです。このような取り決めも、当事者が合意すればもちろん有効ですし、都心の非常に好条件のアパート、マンションの場合は、それでもお客=借家人が殺到するかもしれません。
 しかし、普通のアパート賃貸で、ただ漫然と「敷金」としてお金を預かれば、前述したように敷金の本来の姿から「全額返済」が常識です。したがって、償却の湯合は、当初の契約書の中でその旨を明記しておかなければなりません。
 また、普通のアパート賃貸で、契約期限も2年とかの短期間なのに、一年分の家賃相当の敷金を預かり、返済時その50%を償却して家主の取得とするなどは、いくら借家人が合意して特約しても、暴利行為として無効とされるでしょう(民法90条)。これでは、敷金の担保性に名を借りて、暴利をむさぼる行為と解されかねないからです。

 C 敷金と利息
 敷金は家主の預かり金ですが、これには利息を付さないのが原則とされています。したがって、この点、借家人に誤解を生まぬよう、「この敷金には利息を付さない」といったことを、敷金を預かる当初の借家契約書の中に明記しておいた方がよいでしょう。
 もちろん、家主が承知なら、敷金に利息を付することは自由です。これは借家人にとって利益にこそなれ、不利益にはならないから、借家人の合意をとりつける必要はありません。

 D 敷金の増額
 賃料が増額された場合、これに応じて敷金も増額されるのが普通です。この場合に備えて、敷金を預かる当初の契約書で、この旨の特約を明記しておいたらよいでしよう。

 E 敷金不払いと契約解除
 借家人が約定の敷金の預託を怠ったときはどうするか?
 家主はそれを理由に借家契約を解除できるものと解されています。しかし、念のため、その旨の特約をしておいた方がより明確となるでしょう。

 F 敷金不返還の特約
 一定の事由があるときは、敷金を返還しない(没収する)旨の特約は有効だろうか?
 「一定の事由」如何では、かかる特約は無効と解される場合もありますので、できればかかる特約は避けた方が無難でしょう。
 以上を要約すると、敷金は適当な額(例えぼ2年契約の普通のアパート賃貸の場合なら家賃の2〜3ケ月分くらい)を、無利息として預かり、償却なし、増額の特約はつけ、不払いの場合は契約解除ができる旨を合意=特約し、不返還の特約はしない、といった程度の取り扱いで、借家契約関係の担保としては十分ではないかと思われます。(

      
 木造2階建てアパートを所有しています。最近は不況続きのためか、たちの悪い借家人が増えてきました。貸室に居座って、家賃まで滞納しているのに、なんだかんだと文句をつけて、立ち退こうとしません。この間も、弁護士に頼んでやっと裁判までして立ち退かせましたが、この手間ヒマ費用が大変でした。どんな場合、家主は、借家人を立ち退かせる権利があるのでしょうか?また、そんな場合、家主としてどんな対応をすればよいでしょうか。
 従来から、借家権は法律で強く保護され、家主さんたちからは、「なんで借家人ばかり保護されるんだ」といった不満をつのらさせていました。
 しかし、そのため貸家の供給が不足がちとなってきたので、国もやっとその重い腰を上げ、20世紀の終わりごろに至り、家主側も保護するような法改正や新立法に取り組みかなりの面でその辺が修正されました。
 しかし同時に、借家人側に<ゴネ得>的権利主張も目立ってきました。
 例えば、借家人側からすれば、なんだかんだとゴネて、家賃も払わず、借室に居座っておれれば、こんな好都合な事態はありません。

 そこで以下、本問にお答えする形で、この問題につき、家主の立場から承知しておくべき諸点を究明してみることにしましょう。

 @家主が借家人に立ち退き要求ができるとき
 借家人は、借家契約が消滅すれば、当然借家権を失い、借家人は家主の要求に応じ借室より退去しなければなりません。
 では、どんな場合、借家契約が消滅するのでしょうか?

(ィ)契約期間の満了。
ほとんどのアパートの借家契約は、斯限が決められています。その期限が満了したら、原則として借家契約は終了します。
 ところが、借家契約には<期限の更新>の問題があります。そして、家主がこの更新を拒んで約束の期限通り借家契約を終了させるためには、(A)期間の満了1年から6カ月前の間に、「期限の更新はしない」旨の通告を借家人にしておくこと(借地借家法26条1項)(B)そして、この更新拒否には、家主が貸室につき自己使用の必要のほか、正当な事由がなければなりません(同法27条)。

(ロ)解約の申し入れ。
家主は契約斯間の中途においても、上の更新拒否事由と同様の事由があれば、借家人に対し解約の申し入れをすることができます(同法27.28条)。そしてこの解約申入れが認められれば、借家契約は終了しますから、家主は借家人に対し貸室からの退去を要求できます。
 しかし借家人が争うと裁判になれば、まず解約申し入れが正当かどうか判定され、その上で、借家人への立ち退きが命ぜられることになります。

(ハ)契約解除。
借家人が家賃を支払わないとか、その他借家契約に違反した場合、家主は借家人にその是正を求め、それでも借家人が応じないときは、借家契約を解除できます(民法540条以下)。
 この解除があると、借家契約は消滅しますから、家主は借家人に対し、貸室の立ち退きを要求できます。しかし、借家人がこの解除の効果を争う場合には、前述(ロ)の場合と同様、弁護士にその裁判手続きを依頼することになるでしょう。

 A借家人との立退き交渉
 例えば、家賃の支払いが悪い借家人がいたとします。当然、家主と借家人との間で、「早く払え!」「もう少し待ってくれ!」とその話し合いになるでしょう。
 このような話合いの結果については、両者間できちんとした書面を残しておくことが必要です。
 なお借家人がしたたか者で、「そんな書面なんかとりつけても、とても実行しないだろう……」と思われるときは<起訴前の和解>という簡単な裁判手続きを利用したらよいでしょう。
 最寄りの簡易裁判所に行くと、申し立ての書式もあり、窓口でよく説明してくれますから、素人でもこの裁判手続きは利用できます。しかも、両当事者が1回裁判所に出向けば手続きは終わり、<和解調書>が裁判所で作られます。こうなると、借家人が立ち退かず居座るようなときは、この和解調書で、強制立ち退きさせられます。
 これなら、手間ヒマ費用も大してかかりませんから利用すべきです(民事訴訟法356条。申立書だけ、弁護士とか司法書士に作ってもらうのもよいでしょう)。

 借家人を立ち退かせる場合、借家人側も自分の非を認めている場合とか家賃不払いとか非が明らかな場合を除き、とくに借家人が、「自分の方に非はないっ」と争っている場合などのときは、素人の家主さんの手では、立ち退かせることは無理です。このような場合は、最初から弁護士に依頼すべきで、結局その方が手間ヒマ費用も少なくてすみます。
      
 Bさんは、アパートを2棟所有していますが、両方とも傷みが目立つようになってきたため、平成12年中に次のような補修工事をしました。今回の確定申告では、これらの費用を修繕費として節税を図るつもりですが、すべてを必要経費とすることができますか?
<M荘>   
・屋根の雨漏り補修工事……30万円
・外壁の塗替え補修工事……20万円
<メゾンN> 
・風呂場の窓枠サッシ取替工事…15万円
・台所排水管取替工事…………18万円
・内装改修工事(壁紙張替え、畳取替え、など)…55万円
 業務用の建物や附属設備、備品などの修繕にかかった費用は、「修繕費」として全額を経費とすることができます。
 しかし、その資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価値を増加させる支出は「資本的支出」とされ、資産に計上して、毎年減価償却費を経費として落としていくことになります。

 修繕費とされるのは、その資産の通常の維持管理のための費用か、または災害などによって壊れた資産の原状回復のための費用などですが、実はこれに該当するかどうかを判断することは非常にむずかしいのです。そこで実際には、次のようなものは修繕費として認められることになっています。
@少額かまたは周期が短い修理・改良の曹用
・一つの修理や改良のために要した金額が20万円未満のもの
・これまでの実績や事情から、おおむね3年以内の期間を周期として行なわれたことが明らかなもの
A一つの修理に要した金額のうちに資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、次の形式基準のどちらかを満たしているもの
・その金額が60万円未満のもの
・その金額が、修理の対象である資産の前年末の取得価額のおおむね10%以下である場合

 したがってBさんの場合、M荘の雨漏り補修、外壁の塗替え、メゾンNの内装改修工事費用はAによって修繕費となり、メゾンNの窓枠サッシ取替工事と台所排水管取替工事は@によって修繕費となります。
 つまり、すべて平成12年分の必要経費にできるわけです。

      
 私のアパートの借主が犯罪で逮捕されました。その際に暴力団員であることが判明しました。契約を解除したいのですが可能かどうか、また可能ならばどのようにしたらいいのかをお教え下さい。なお連帯保証人は借主の母親です。
 自力で解決するのは骨の折れる仕事です。借主が暴力団の構成員である場合は連帯保証人もその関係者であることが多いです。解約明渡しをする場合は刑務所へ出向き本人と面会し、了解を得る等の手続きが必要となります。その際「明渡し同意書」「残置物の処理・処分同意書」を作成し、面会時に捺印の上封書で送り返すことを納得してもらう必要があります。
 相談者に話を開きますとこの借主は家賃を滞納していなかったそうですから、事件を起こして逮捕されたことが解約事由となります。弁護士に依頼し、早い段階で解約、退去を進めていくのが良いでしょう。今回は母親が連帯保証人とのことですので、その母親と打ち合わせをして前述の処置をするのが良いでしょう。

 「警察が介入するような事件に入居者が関わった際は、貸主は契約を解除できる」旨の一文を契約書に入れておくと明渡しがより明確になります。

      
 1棟のアパートの入居者の中で、何度注意しても約束を守らない人が二人います。どうしたらよいのか教えてください。
  @1件の方は内職をしており、ダンボール等をアパートの敷地に置いています。Aもう1件の方はバイクの回収業を行っており、敷地にバイクを何台も置いていて他の入居者に迷惑をかけています。この方は特に悪質ですので、法的手段により契約解除をしたいです。
 まず契約書の内容ですが、該当する条文の有無を確認してください。
 @内職を止めるように強制することは不可能です。共用部分の使用が他の他人の邪魔となるようなら厳重注意し、邪魔にならない別の場所への移動を要請します。悪質な場合は契約違反を理由に、解除・明渡しの要求をします。
 Aこれは非常に面倒な事例です。
 契約書の内容を検討し、何条に違反しているかを確認してください。
 違反している場合は、それを要件に内容証明・配達証明により契約解除を通告します。
ただしどけてもらうのに一定期間の猶予を与え、改善されなければ契約違反で解除すること。期間が到来しても明渡さない場合は退去督促します。更に明渡し訴訟を申し立てます。

      
先代に土地を貸し、現在はその長男が住んでいる建物が、地主である私に何らの連絡もなく第三者に売ったらしく、先日、偶然に通りがかったところ、一階玄関を改造してビデオショップにしていました。借地権の無断譲渡に当たると思いますので、契約を解除したいと思いますが…。
 他人のものを借りて利用している者は、貸主の承諾なく他人にこの権利(賃借権)を譲渡することはできません。これに違反すると、貸主は賃貸借契約を解除することができます(民法612条)。
 これが原則ですが、裁判例は、形の上で無断譲渡が認められても、地主と借地人との信頼関係を破壊しない特別の事情があると認められる場合は、地主は借地契約を解除できないと、条件をつけています。
 これに当たるものとして、借地人の個人経営を法人組織に改めただけとか、譲渡人と譲受人が、同居の親族その他特殊の関係に当たるとか、譲渡などが一時的で元に戻るものである場合、などです。
 しかし、おたずねのケースは、第三者に家屋を譲渡(確認する必要がある)し、承諾もなくビデオショップに改造しているなど悪質ですから、典型的な無断譲渡であり、地主と借地人間の信頼関係は破壊されたと考えるべきで、解除ができるでしょう。

      
戦前、父の代から50坪の土地を店舗兼住居所有を目的に貸していますが、公租公課の値上がりによって、賃料(地代)を月額12万円に増額請求したところ、借主は、公租公課の額を下回る月額6万円の額が相当賃科額だとして供託してきました。月額6万円の賃料は、昭和55年8月に増額されて以来据え置かれたものです。賃料不払いを理由に、賃貸借契約は解除できませんか?
 戦前からの借地ですから、借地法12条2項の賃借料増額紛争の問題です。同様のことは、平成4年8月1日から施行された借地借家法11条2項にも関係します。
 借地法12条2項は、貸主から賃料増額請求があれば、請求時に当然に適正額に増額されることを前提にして、借地権者は、増額を正当とする判決の確定までは、「相当卜認ムル」賃料を払えば足りる(支払額が結果的に適正額に不足していても債務不履行にはならない)が、右の判決が確定したときは、不足額および年1割の利息を支払わなければならないとした規定です。「相当卜認ムル」額は、借主が主観的に相当と認める額でよいのですが、ただ、公租公課の額を下回ることを借り主が知っていた場合には、債務不履行になるとの新判例(最高裁、平成8・7・12)が出ていますから、契約解除の可能性があります。

      
私の持ち家で長い間賃貸している家がありますが、そこのご主人が亡くなって、70歳に近い内縁の妻が一人で暮らしています。少し痴呆気味で、先日、危うくボヤを出しそうになりましたが、内縁の妻にこの貸家に住む権利があるのでしょうか?
 賃借人が死亡しても、賃貸借契約はそれによって終了しません。それは、土地の賃貸借でも建物の賃貸借でも同じです。その契約関係(借家権)は、借家人の相続人が相続します。その場合、家主の承諾は必要なく、また名義書替料など金員の支払いは必要ありません。借家人の死亡により当然に承継される権利です。
 さて、この場合の相続人ですが、借家人の死亡のあとに住んでいるのは、内縁の妻ですから、法律上の相続人ではありません。しかし、事実上の妻が借家権を相続できないからといって、夫の死亡により借家から出なければならないのは気の毒です。
 そこで、借地借家法では、借家人に相続人がいない場合には、その借家人と同居していた内縁の妻や、事実上の養親子関係にあった者が借家権を引き継ぐことを認めたのです(同法36条)。したがって、内縁の妻であったことを理由にしての明渡請求は無理と思われます。

      
私の友人が10年前から借りている貸家の持ち主が、借家人である友人に何の挨拶もなく、建物を第三者に売って北海道に移住してしまいました。これを買った者は、企業舎弟といわれる暴力団に関わりのある人間で、先日、家から立ち退いてくれと言ってきました。立ち退く理由はありませんが、前の家主も身勝手だと思います。何か対策はありませんか?
 建物の所有者が、借家人に無断で家を売っても、原則として別に責められません。借家人の承諾はいっさい必要ないのです。
 建物の譲渡があった場合の新所有者と借家人の法律関係は、一般の賃貸借の場合と異なって、借家人は保護されていて、建物の引渡しを受けていれば、借家人としての地位を建物の新所有者に対抗できるとされています。この場合には、これまでの建物賃貸借契約の内容どおりの関係が、借家人と新所有者との間で継続することになります。
 しかし、問題はその後のことです。借家人がいるのを承知で買って、立退きを迫るのは違法で、上のとおり借家人は保護されていますが、現実の問題として、生活に恐怖を覚えるなど、生活に支障をきたし、意に反して明け渡さざるをえないような結果になれば、前所有者に損害賠償を求め得る場合もあると思います。

      
定年後のため、自家を改築してアパートを併設し、居住者に一定の株序を守ってもらうため、共用の廊下や階段に物や店屋物の器などを置かない、犬、猫を飼わないなど、用法制限の契約書を作成しました。これに基づいて、違反者には契約解除ができますか?
 アパートや共同住宅で、一定の用法制限を設けるのは、その特珠性からいって仕方のないことです。このような特約を求めるのは、建物全体の統一的利用、建物の品位保持のために必要なことです。したがって、借家人は、この用法を守る義務があります。
 さて、借家人がこの特約に違反した場合、契約違反として契約の解除が認められるか否かです。契約に当たって、用法制限を特約した事実があるからといって、違反があれば直ちに契約を解除できるというものではなく、貸主と借主の信頼関係が、それによって破壊されたか否かで判断しなければなりません。裁判例もその点を強調しています。
 一般的にいえば、居住用として貸したのに、事務所とか店舗として使用している場合、廊下に禁止されている物を放置するとか、犬や猫を飼うなどをした場合、貸主の何度かの注意にも耳を貸さないなどの事実があった場合には、契約を解除できるでしょう。信頼関係の破壊とはそういうことを指していると思います。


      
期間10年の定期借家権を結ぶ場合に、賃借人の希望で賃貸人からの終了通知を2年前から1年前までの問に設定することは可能ですか。
 借地借家法38条4項に定めた1年前から6カ月前までの間と併せて設定するなら可能です。
 通知期間の変更は賃借人に不利にならない場合なら認められるというのが一般的解釈です。しかし、その判断は現実には難しく、期間を早くすることが必ず賃借人に有利とは言えないという判断を裁判所がすることも考えられます。
 設問のように賃借人の希望で2年前からとすることは一般的には有効と思えますが、念のため、1年前から6カ月前までの間にも通知すると定めておけは、間違いなく賃借人には有利な特約となるので問題はありません。

      
契約期限の通知は内容証明が必要ですか?
 借り主に確実に通知されたことを証明するためには配達証明付きの内容証明郵便による通知が有効ですが、そのほかの方法も考えられます。
 1年以上の定期借家権を期間満了時に確実に終了させるためには、期間満了の1年前から6カ月前までの間(通知期間)に賃借人に対し「期間満了により賃貸借が終了する」旨を伝えなけれはなりません。
 契約終了時に通知の有無をめぐって紛争が生じないようにするためにも、配達証明付き内容証明郵便による通知は極めて有効となります。しかし、すべての契約について内容証明とすることは、費用も手間もかかります。そこで、通知期間中に借家人に直接面会し、通知の受領書に署名押印してもらう方法も考えられます。
 また、通知はもともと賃借人に対し契約の終了を主張するためのものなので、再契約することが確実な場合には通知は口頭連絡だけで済ましてしまうということも考えられます。ただし、その場合、再契約が無事に成立すれば問題はありませんが、万一、賃料改定などで調整がつかず、当初の契約期間が相当期間過ぎてしまったような場合には紛争となる可能性があるので注意する必要があります。

      
定期借家権で再契約をした場合、借り主が負う原状回復義務の時点はいつになりますか。
 定期借家権での再契約は当初の契約とは別個のものであるため、本来であれば再契約時に原状回復義務の履行と敷金の清算を行うことになります。しかし、再契約の度に家具をいったん外に搬出して室内をチェックすることは不可能なため、旧契約については原状回復義務を免除するのか、再契約での原状回復義務を当初契約時までさかのぼるのかを規定しておく必要があります。 
 原状回復すべき時点を当初契約時までさかのぼることにした場合でも、敷金の清算に関しては賃料の不払いなどによる金銭部分については当初契約終了時に実行する方が合理的でしょう。その結果、再契約に繰り越されるべき敷金に不足が生じた場合には新たに充当することになります。
      
最近、再契約前提型の定期借家権が普及していると聞きますが、本当ですか。
 建設省の標準契約書でも採用されたことから、現実に成約されている定期借家権の多くは再契約前提型になっているものと推測されます。
再契約前提型の公式な定義はありませんが「当初の契約期間が満了したとき、入居者に重大な契約違反や家賃滞納などがあった場合を除き、再契約することを前提に契約するもの」といえます。
 ただ、重大な契約違反という場合の具体的な中身やその基準ははっきりしません。また契約違反がなければ再契約が絶対に保証されているのか、などあいまいな面もあります。
 建設省の標準契約書では「貸主と借り主は協議の上、再契約ができる」と規定していますが、この点については借家人が誤解をしかねないので「協議して合意できた場合には再契約できる」という文言にすべきではないかとの批判もなされています。
      
定期借家の契約期間が終了して立ち退きを求めたのに、明け渡しを拒まれた場合にはどうなりますか。
催告、訴訟提起、明け渡し判決、強制執行という手続きをとることになります。
どういった手続きが必要で、どの程度の期間が掛かるかは定期借家権推進派と慎重派によって専門家の間でも多少ニュアンスが異なります。例えば、推進派は催告なしに直ちに訴訟を提起すれは審理なしで明け渡し判決を得ることができ、それでも立ち退かなけれは強制執行申し立てをするとしています。
 しかし、常識的にはまず内容証明郵便で明け渡しを催告し、それでもだめなら訴訟となります。裁判では借家人に居座る法的根拠はないので、審理は省かれるはずですが、借家人が事前説明や通知義務が法律通り行われていなかった旨を主張した場合にはその点が争われることになります。
 定期借家権を成立させるための法的手続きに問題がなけれは確実に借家人が敗訴するため、そのような判例が増えるに従い従来の正当事由借家のように借家人が居座るケースは次第に見られなくなると思われます。
       
貸し主に再契約をする意思がある場合、再契約の条件はいつまでに、どういう方法で提示すればよいのでしょうか。
 貸し主が再契約をする意思がある場合には、契約期間の終了をまえもって通知するときに、通知書に再契約の条件を提示して賃借人の意向を確認する方法が一般的となります。
借り主が再契約の意向を示し、借家人も通知書に提示された条件(賃料など)での再契約を希望した場合には、当初契約期間の満了日に翌日を始期とする再契約を交わすことになります。ただ、問題は通知後に貸し主が何らかの理由で再契約を拒むことも予想されるため、再契約を実際に結ぶまで、借家人は万一再契約ができなかった場合のことも想定しなけれはならないという不安定な状態に陥ることが考えられます。
 建設省もこの点は「非常に微妙な問題」(民間住宅課)としています。ある業者は当初の契約期間が残っていても、当事者が合意した時点で再契約を交わしてしまうしか方法はないという見解を示しています。
     
このたび施行された「定期借家権」で契約しようと思っているのですが、ひとつ疑問があります。契約を終了させるとき家主が一定期間までに通知することになっていますが、もし契約期間が満了したあとも通知を忘れていた場合はどうなってしまうのでしょうか。
    定期借家制度で契約した場合、契約期間が1年以上のときは、契約を終了させるためには、契約が終了する1年前から6ヶ月前までの半年間の間に、貸し主が「終了します」と通知しなければならないことはご存じの通りです。ついでにこの通知は特に文書で行うように、とは決められていませんが、現実には証拠を残すために「内容証明郵便」で行うことになるでしょう。
 さて、この半年の間に終了通知をし忘れた場合はどうなるのでしようか。もし、契約が満了する前に気がついて通知すれば、通知してから6ヶ月で契約は終了できます。しかし、ご質問のように、気がついたときはすでに契約期間が満了していた場合はどうなるのかが問題です。

 これには、今のところ完璧に答えることができません。法律家の間で意見が分かれているのです。この改正法を作った人の考えは「契約期間が過ぎていても(つまりいつでも)終了通知をしたときから6ヶ月で契約は終了できる、というものです。作った人がそう言っているのだからそれで良さそうなものですが、法律というものは施行されると一人歩きします。別の法律家は「終了通知のないまま契約が満了すると、それ以降は普通借家権に移行すると考えるべき。したがって正当事由や立退料が必要になる」と主張しています。つまり、現時点ではどんな判断が下されるか100%の確信が持てません。
 というわけで定期借家権といえども、約束通り契約を終了させるためには、確実に期間内に通知すること重要です。期間の管理は難しいので、信頼できる不動産業者に任せることをお薦めします。

  
築35年になる貸家を10棟所有しています。現在入居しているのは6世帯ですが、そろそろ建て替えをしたいと考えています。どのように交渉を進めればよいか、教えてください。
 通常、次のような手段で立ち退きの交渉を行います。
 まず一軒一軒を訪ね、立ち退きのお願いをして廻ります。全世帯を集めて行うのは得策ではありません。一軒ではおとなしい人もグループの一員になると強気の発言をする傾向があります。また、一番強気の人の発言に全体が傾いてしまいます。それから内容証明で解除通知を出すのも考えものです。確かに借家法では、家主の解除通知は半年前に行うように定められていますが、どっちみち借主の承諾が得られなければ解除は成立しないのですから、半年前に通知したとか通知してないとかは、関係ありません。かえって内容証明のような書類は相手の態度を硬化させる恐れがありますから、私は必要ないと思います。

    それからある程度の立退料は用意してください。立退料に相場はありませんが、借主が次に賃貸住宅を借りるのに必要な金額(礼金・敷金・手数料・引越費用)と迷惑料として10万円くらいは必要でしょう。これはあくまでもこちら側が用意した額で、交渉次第ではもっと高額な立退料も覚悟する必要があります。借主を訪ね、老巧化した建物がこのままでは危険で、中規模の地震がくれば命も脅かす可能性があることなど、誠意を持って説明します。中には感情的な対応をする借主もありますがこちらは冷静に接しなければなりません。不満があったら黙って聞くことです。承諾してくれたらその場で合意書にサインをもらいます。後日にすると条件が跳ね上がることがあります。

    強く異議を唱えたり立退料を高く要求しそうな借主は、交渉を中断して後回しにします。交渉に応じてくれる人だけを優先して合意し、どんどん退去を進め、取り壊しを開始し、空き地はとりあえず月極駐車場で貸します。最後に残った借主との交渉になりますがある程度の交渉回数は覚悟してください。立退料も当初の金額に上乗せがあるのはやむを得ないものと思ってください。
    
3DKの賃貸マンションを所有していますが、借主のAさんが3ヶ月分の家賃を滞納しています。契約解除の通告を内容証明で出したのですが、どうも相手は法律に詳しいようです。知り合いの弁護士がいろいろアドバイスしてくれている、とも言います。これからどのように対処したらいいですか
 法律に詳しいとは、おそらく内容証明郵便や契約書の内容に対し、専門的とも思える指摘やクレームをしてくる、ということだと思います。また、話の中に弁護士の存在をちらつかせているようですが、相手側が法律の専門家ならば、こちらもそれなりの姿勢で臨む必要がでてくるでしょう。つまり、当方も弁護士を立て、専門家同士で決着をつけるほうが良いと言うことです。
 しかし、本当に弁護士がついているか、というと怪しいものです。家賃を滞納している者が、訴訟を起こされたわけでもないのに弁護士を頼むのは考えられません。また、そんな費用を負担するとも考えにくいのです。私は、この弁護士の件は単なる脅しにすぎないとにらんでいます。

 次に法律に多少詳しいようだ、ということですが、かえって詳しい相手の方が手間が省ける、ということもあります。こういう人に限ってこちらが法的手段にでると、すぐに退去したり家賃を支払ってくることも充分あり得ます。
 そこで、相手の反応を見るために何か法的手段を起こしてください。「少額訴訟」か「支払督促」がいいと思います。その反応を見て、次の手を考えます。

 また、この契約はすでに内容証明郵便で宣言したように解除されていることを忘れないでください。たとえばもう一度“○月○日に解除する”と言って、違う日付を申し渡したりすると、前の解除がなかったかのようになってしまいます。また、仮に相手が賃料を支払ってきたとしても、解除日以降の分は、家賃でなく損害金として受け取るようにしてください。

   
1Kマンション20世帯を所有していますが、入居者の方が部屋の中で自殺をされました。上場企業による法人契約で、そこの社員の方が住んでおられました。頭の中が真っ白になってしまい、今後どう対処していいか分かりません。
 まずこの法人に、今後も賃貸契約を継続するように要請してみてください。おそらく契約を解除してくるものと思われますが、「次の借り手を探すのも難しいので、当分借りて欲しい」と交渉してみるのです。相手側も出来るだけ早く解約したいと考えるでしょうが、この後、新たな借り手がなかなか見つからないことや、賃料が下がってしまうことを訴えて、1〜2年間継続することをお願いしてみてください。それでも解除するようであれば、仕方ないのでこの法人に損害賠償を請求します。請求は、まず室内の全クロスの張替やクリーニング、お祓いにかかる費用。そして、仮に賃料が1万円下がるとして、2年分の24万円位が請求できる範囲ではないでしょうか。

 ご質問では当時の状況が詳しく分かりませんが、おそらく救急車や警察の車が来たと思いますので、近所の方も知っているものと思われます。次の募集に際しては、この事件の内容を詳しく伝えることが求められます。もし伝えずに契約して、あとで事実が判明した場合、貸主が借主から損害賠償で訴えられることになります。
 また、紹介する不動産業者は、新たな借主に「重要事項説明書」という書類で、この事件の内容を伝える義務が課せられています。学生などには、賃料が2〜3割安ければ平気で住める、という方もいますので、業者と相談して条件を決めてください。
   
2DKのアパートを所有していますが、最近、空き室が目立つようになりました。そこで条件をゆるめて、友人 同士にも部屋を貸そうかと思っています。契約するとき    に注意しなければならない点を教えてください。
 友人同士で部屋を借りる場合にまず心配されるのは、いい加減な使い方で部屋が通常に比べて傷むのではないか、隣の居住者たちに迷惑をかけるのではないか、ということです。そこで、未然にトラブルを防ぐためには、上記の点について、借家人になろうとする人に対し、よく説明し、契約内容について十分納得してもらった上で契約を結ぶようにすることが必要です。契約書以外に入居規約を作成しておくことも役に立ちます。

 次にその契約書ですが、家賃の支払いと借家人としての義務をしっかり守ってもらえるような工夫が必要です。そのためにまず、片方が借主になり片方が連帯保証人になる、という方法はやめるべきです。ではどうするかというと、双方連名して借家人として契約書に署名捺印するのです。つまり二人とも借主当事者となるのです。その上でお互いが「連帯して」他方の債務を履行する義務を負うように、契約書に掲載しておきます。こうしておけば、8万円の家賃を半分づつ負担する約束で入居した場合でも、家主としては関係なく双方に8万円を請求できます。また、連帯保証人も二人それぞれから別にとるようにします。二人が仲違いして片方が退去してしまった場合、二人分の家賃が払えず滞納が発生することが多いのですが、そんな時でも退去した相手の連帯保証人に請求することができます。 

 また、貸室の明け渡しに際して、一方が荷物を置きっぱなしで出ていった場合、その荷物をどう処分して良いか家主さんとしては悩むところですが、この点についても契約書の中で、荷物の処分も双方の責任ということを明確にしておくとよいでしょう。
 以上、契約書内で双方を連帯責任のある借主にすることと、別々に連帯保証人を立てさせることを中心に、独自の条項を盛り込むことがポイントです。
   
私が所有するアパートの住人が、入居の際に火災保険への加入を拒否してそのまま入居しています。
友人から万一の事態を考えると心配だ、と忠告されたのですが、もしその住人が火災を引き起こした場合、どのような事態が考えられますか。
 アパートがA借家人の火の不始末で全焼したとしましょう。
 「失火法」という特別法によると、A借家人の不始末のせいで家財道具を焼失した他の借家人に対し、火元のA借家人には、A借家人に重過失(放火に近いような大きな過失)が認められない限り、損害賠償の義務が生じません。つまり被害を被った他の借家人は“焼け出され損”になってしまいます。すなわちアパートの住人は、自らの財産は自らの手で守るしか方法がないのです。アパート・マンションに入居する際に火災保険に加入する理由の第1はここにあります。

 それでは大家さんとA借家人の関係はどうなるでしょうか。やはり失火法により損害賠償責任を免れるのでしようか。
 答えは“ノー”です。大家さんとA借家人とは賃貸借契約で直結していますのでA借家人には大家さんに対する損害賠償責任が生じます。しかしその範囲はアパート全体でなくAの借室の時価相当額のみです。その他の損失分は失火法により請求できません。大家さんは自身で建物全体に火災保険を掛けて保全をはかる必要があります。

 さてこのように考えると、借家人にはアパート入居者用の火災保険に是非加入してもらう必要があります。一番目に自身の財産を守るため、二番目に万一の損害賠償に備えるため、にです。今回のご質問のように既に入居してしまっている場合も話し合いのうえ理解を得て加入してもらってください。どうしても加入しないときは、他の入居者の失火により自身が損害を被っても、家主に対して一切の苦情と賠償を申し立てない、との一筆をとっておくことをおすすめします。
 この賠償責任は連帯保証人にも及びますので、そのことは保証人に伝えておくべきでしょう。保証人が借家人を説得してくれるかもしれません。
 
    
更新を3回している借主さんがリストラに会い、最近家賃が滞納しはじめました。そろそろ保証人に請求したいと思っていますが、更新契約の際に一度も署名をもらっていません。こんな状態でも請求できるのでしょうか。
 保証人は、家主に対して借家人が負う賃貸借契約上の債務を、借家人に代わって履行する責任があります。この保証人の責任は、賃貸借契約が成立したときの借家人の債務と基本的に同一性が保たれていれば、債務の内容が更新などによって変更された場合にも、同じように変更されることになります。したがって、家賃が改定された場合にも、保証人は改定された家賃債務を保証することが義務づけられます。
 ご質問のケースでは、更新契約の際に保証人に通知がされず、保証人の署名捺印がなされていないということですが、このような場合でも原則的に保証人の債務は継続すると解釈されています。それは賃貸借契約書の内容に、更新可能の条項が含まれている以上、保証人は更新されることが前提であることを承知して保証人となった、と解されるからです。

 しかし、無期限でこの保証債務を負い続けなければならないのか、というとそうではないことを判例が示しています。ケースにもよりますが、更新3回までは保証人の債務を認めるが、それ以降は免除された判例もあります。今後は更新時の署名を保証人にも求めるようにしてください。滞納のあった借家人の更新契約に署名する事を拒否する保証人もあると思いますが、その場合も内容証明郵便で署名を求める旨を明記して送付しておくことをおすすめします。

 滞納が発生したとき、連帯保証人でなく単なる保証人の場合、借家人の家賃支払い能力を証明すれば、保証人は、先に借家人に請求するように求めることができます。また、借家人に財産があることを立証すれば、その財産に対して執行するように求めることができます。保証人は必ず連帯保証人として署名してもらうようにしてください。