第2回 「相続税の負担はこう変わる」


 相続税の負担を軽減するためには、相続税の課税対象となる財産の評価額を下げることが必要です。その一つの方法として、更地にアパート等を建設し、不動産運営をすることで、確実に相続税の評価額を下げることができます。つまり、土地の有効利用が相続税を下げることになるのです。以下、実例でご説明しましょう。
(1)更地から貸家建付地へ
 都内でテニスコートを運営するMさんの事例です。テニスコートは土地面積と比べて、収益性は今一つ。加えて、昨今の固定資産税の負担は相当なものとなります。思い切って、収益性増大と相続税対策を兼ねて、賃貸マンションの建築に踏み切りました。


(建築計画の概要)
評価:現状は更地評価
土地面積:4,000u
土地更地価額:20億円
建築価額:12億円
資金:全額借入金
1室当たりの面積:55u
住戸数:70戸


 現時点での土地の相続税評価額は20億円です。この土地に、マンション等の建物12億円を銀行からの借入金により建設し、賃貸します。
@貸家建付地について
 マンションの建築により、土地は更地から「貸家建付地」という評価方法に変わります。この貸家建付地を算式で示すと以下のようになります。

  貸家建付地の評価=土地の更地価額×(1−A×B)

 Aは借地権割合、Bは借家権割合で、地域ごとに路線価図に示されています。
 なお、借家権割合は東京国税局管内では一律30%となっています。Mさんの例については、借地権割合は60%地域のため、
20億円×(1−0.6×0.3)=
 16億4千万円 となり、約2割ほど評価額が下がります。

A建物について
 建物については、相続税の評価にも基本的には固定資産税の評価額をそのまま利用します。ただし、その建物が賃貸されている場合には次の算式の通りになります。

 建物の評価額=固定資産税評 価額×(1−借家権割合)

 固定資産税評価額は鉄筋系の建物の場合、建築価額の6割から8割で評価されます。その価額に借家権割合を控除した割合をさらに乗じますので、結果的には建築価額の約50%程度となります。
 つまり、賃貸物件を建築することにより、実際の建築価額と上記の評価額との差額が相続税法上の節税対策となるわけです。

B賃貸マンション建築後ではこう変わる
 マンション建設前後では表1のように相続財産の価額が変わります。


項目 建設前 建設後
土地 20億 16億4000
建物 0 5億8800
借入金 0 △12億
合計 20億 10億2800



小規模宅地等の減額


@小規模宅地等の評価の特例

 相続税法においては、一定条件の下に、居住用(240uまで)または事業用の土地(400uまで)なら80%引き、アパートマンション等の貸付用の土地(200uまで)なら50%引きで評価できる特例があります。これを「小規模宅地等の評価の特例」といい、相続対策の中でもっとも重要な位置を占めるものの一つとなっています。

A適用方法
 この特例は、居住用で適用しても、または、事業用、貸家用で適用しても、一定の面積の範囲内で、自由に組み合わせて使うことができます。
 そのため、土地の1u当たりの評価が高いところから順にこの評価減の特例を適用していくことが、得策と考えられます。

 極端な例を挙げますと、北海道の土地1万坪のうち200uの部分を取り出して適用するのと、銀座の土地200uについてこの特例を適用するのとでは、下記の通り減額できる金額に大きな差が生じることとなります。
 
例えば、北海道の土地2億円(1万坪=3万3000u)、銀座の土地2億円(60坪=200u)とします。どちらも貸宅地と考え、小規模宅地等の評価減の割合50%を適用いたしますと減額される金額は、北海道の土地の場合約60万円となり、銀座の土地では1億円となります。

 上記の計算から、銀座の土地について小規模宅地の評価減を適用する方が節税対策となるのは明らかです。
 生前に交換・買換の特例を使って土地を整理し、資産を組み替えることも有効な対策となります。土地の面積は減っても、収益性が向上し、小規模宅地の評価減を効率よく活用できるようにすることも重要です。

B賃貸物件でも80%減額ができる場合
 原則として、賃貸マンションの経営等不動産の貸付けの対象となっている土地についての小規模宅地の減額割合は50%です。ただし、1棟の建物の中に、80%の評価減を受ける自宅部分と50%の評価減を受ける賃貸部分がある場合には、賃貸部分も80%の評価減を受けることができます。
 ご自宅の建て替えに際し、賃貸マンションの一部にご自宅を組み込むことも、おおいに相続税対策となるのです。

賃貸物件に隣接する駐車場の評価

 近年、駐車場完備のマンションが多く見受けられます。原則として、駐車場についての相続税法上の評価方法は、更地と同様です。
 ただし、その駐車場が隣接するアパート・マンション等の賃借人専用のものであれば、貸家建付地として、マンション等と一体で評価することができます。
 このときに注意しなければならない点は、駐車場の賃借人に一人でも外部の者がいる場合には、駐車場部分は更地評価とな
ってしまうということです。1、2台分の空きがあるからといって、第三者に賃貸すると思わぬ税負担を強いられることにもなります。目先の利益にとらわれず、「損して得取れ」かもしれません。