Q.30室の賃貸マンションを所有しています。募集を依頼している不動産業者から「申し込みが入った」と連絡ありました。
保証会社の審査も通り、借主の内容も問題ないので「お願いします」と告げました。
ところが10日後、町内会長の息子さん夫婦が「借りたい」というので、申込みを断ろうと業者に連絡したら「昨日、契約しました」とのことでした。
出来れば会長さんの願いを聞き入れたいのです。
私は「お願いします」とは言ったが契約が「いつか」は聞いていませんでした。まだ入居していないので、契約を白紙に戻すことは出来ないでしょうか。
A.答えは、「契約は成立しているので白紙にはできない」です。
まず、「契約の締結はいつの時点か」が問題になります。通常は、借主が契約に必要な金銭を支払い、
貸主と借主が賃貸借契約に署名と捺印をしたところで「契約成立」となります。
民法では「口頭で成立」といいますが、不動産契約の実務では契約書を取り交わすことが必要でしょう。
そして貸主は、契約開始日に鍵を引き渡します。
ところが、通常は貸主が契約に立ち会わず、貸主不在で契約が結ばれることが多いのです。
そこで、貸主は不動産業者に「契約締結を代理して行う」ことを依頼します。
不動産業者は貸主の代わりに、契約書の貸主欄に記名と捺印をします。
ここで質問ですが、その業者さんには、どこまでの代理行為を任せていましたか?使用する印鑑などを取り決めていましたか?
Q.細かな約束ではありませんが、口頭で「代わりに契約する」ことを依頼していたと思います。特に使用する印鑑は定めていませんでした。
A.依頼する代理行為に、少し「あいまい」な点があったようですね。
でも、「代わりに契約してほしい」という依頼が貸主からなされていて、業者からの入居申込みの連絡に対して「お願いします」と告げていますので、今回の業者が行った契約行為は正当な範囲内だと認識できます。
業者に、特に過ちはないと思われます。
「いつ契約する」という連絡は前日までに行うべきですし、契約が締結された直後に貸主に報告すべきですが、申込みから10日以内で契約を済ませていますから、連絡がなかったからと言って「契約不成立」ということはできないでしょう。
Q.でも、契約金も業者から受け取っていないし、まだ入居もしていないので、何とか会長の息子さんに住んでもらいたいのです。
方法はありますか?
A.何事も相談ですので、借主さんに事情を話して「契約を白紙に戻してほしい」とお願いしてみてはどうでしょうか。
契約金も返却し、業者さんにも理解してもらって手数料を戻してもらうのです。
この交渉においては、貸主側に強制力はありませんので、あくまでも話し合いで理解していただくことです。
借主さんは、引越予定日までに他の部屋を探さなければなりませんので、多少の「迷惑料」の支払いを申し出るのも「ひとつの方法」です。
ただし、借主が入居してしまったあとでは「立退き料」ということになってしまい、同じ金銭を供与するとしても金額が違ってしまいます。
さすがに、そこまでして会長の息子さんに貸すことないのでしょうが、誠意をもって話し合うことが大切です。
今後は、賃貸借契約の代理行為を依頼するとしても、もう少し細かなことを決めておいた方がいいですね。