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耐震性能不足で契約解除・立退き要求できるか?

Q.昭和54年に建てた築35年の鉄骨賃貸マンションを所有しています。
「耐震性能が不足している」と言われて耐震補強も考えたのですが、費用対効果がないので取り壊したいと思っています。耐震性能不足を理由に、契約解除・立退きを要求することはできるのでしょうか?

A.おそらく「普通借家契約」で締結しているとして、答えさせていただきます。ご存知の通り、貸主が更新を拒否して契約解除を求めるには、「正当事由」が認められなければなりませんね。耐震強度不足が正当事由にあたるかどうか、というのがポイントになります。

ひとつの判例が昨年の3月にありました。結論から言うと、貸主側(UR都市機構でした)の訴えが認められて、借主に「退去命令」が下されました。貸主の正当事由が認められたのです。

まず貸主側は、昭和46年に建築された11階建てのマンションの耐震改修を最初に検討しました。そのために 改修工事の試算をして、その効果も検討しました。そのうえで、「改修費用が過大にかかり、改修をしても機能性や使用価値を大きく損なう」と判断したのです。その根拠を、交渉の席で借主に示したうえで、2年間の時間を与えて、引っ越し先の斡旋や引っ越し費用の負担を申し出ました。2年間のうちに、204世帯のうち197世帯が交渉に応じて移転が完了しましたが、残りの7世帯の借主は居住し続けました。

借主側は、「耐震強度不足を補うのは民法の修繕義務にあたるので、貸主には修繕義務ある」と主張しました。ところが判決には「貸主の修繕義務とは契約の締結時以上のものまで含めるものではない」という主旨があり、耐震性能についても「建設後に改正された耐震関係法規をも満たすことは、修繕義務に含まれない」と判断されていました。次に借主側は、「もっと安く実現可能な改修方法を検討すべき」と貸主に求めましたが、判決は「改修するか取り壊すかの決定は建物の所有者が判断すべき」と却下しました。ただし、「判断に大きな間違いがなく、借主に十分な代償措置が取られていること」を条件に挙げています。

今回の判決には、貸主であるUR側の以下の行為が大きく反映しています。

・居住者の希望や年齢や障害の有無を考慮して類似物件をあっせんした。
・移転費用の補てんや補助等は、退去にかかる経済的負担を配慮した手厚い内容だった
・取り壊す理由を多数回説明し、移転期限までに2年間の猶予を設けた。

さて、このように貸主側の正当事由が認められた判決ですが、だからと言って、すべての耐震強度不足の物件に、更新拒否の正当事由がある、と思うのは早計ですね。

ご質問されたオーナー様の物件は昭和54年築なので、2年後の昭和56年6月に改正された「新耐震基準」に適合していなくても違法ではありません。貸主にとって老朽した物件は、空室や修繕費の負担増で収益の悪化をもたらします。一方で「借主に安心できる安全な住まいを提供する」という義務も果たしにくくなります。「だから・・・経営も厳しいし、安全も保障できないから・・・だから取り壊したい」という貸主の考えはもっともです。一方で、そこで暮らす借主の事情も配慮しなければならない、と判決は語っています。長く暮らせば暮らすほど、生活の場所を変えるのは簡単ではありません。そのため、国や地方自治体は 耐震強度不足が予想される建物は耐震診断することを勧めていて、自治体の中には、無料で耐震診断を行っているところもあります。
その結果、震度6~7の地震が発生した時に「建物内の人間を守ることができない」と評価されたときは、補強工事をするか、それとも取り壊すか、という判断をくだすことになります。

今回の判決が私たちに教えていることは、もし取り壊すと判断した場合は、その根拠を十分に借主に説明したうえで、退去までの必要な時間的猶予を与えることでしょう。引っ越し先の斡旋や引っ越しにかかる費用等の負担を申し出る必要も教えています。「古くなって危険だから取り壊すので出て行って欲しい」だけでは通らないのですね。いままでは、「老朽化による更新拒否は正当事由として認められにくい」と言われてきました。それが認められた判決として、参考になる部分が多いのではないでしょうか。さて、ご質問に対する解答としては「イエス」です。ただし、解決に至るまでに 十分なプロセスが求められることをご理解ください。

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