Q.アパートの建て替えを検討していますが、まだ多くの借主さんが入居中です。
契約解除が認められるには「正当事由」が必要と聞きますが、正当事由について詳しく教えてください。
A.家主さんが借主に立ち退きを求めることができるのは「借主に契約違反があるとき」と「家主に正当事由が認められるとき」です。
今回のケースは後者になりますね。
まず、借主に対して契約解除を告げることから始まりますが、そのタイミングには2つあります。
ひとつは契約期間が決まっているときで、契約満了の6ヶ月前までに「更新しない」と通知します。
2つめの、期間がない場合は、いつでも6ヶ月前に通知することになります。
そして「話し合い」によって解決を目指すのですが、話し合いで解決できないときは、調停や裁判という手段が使われることになります。
一般的に、「裁判では正当事由は認められにくい」と言われていますが、判例を調べてみると、裁判所は予想以上に家主の正当事由を認めている、という事実が分かりました。
「借家の立退きQ&A(住宅新報社 宮崎祐二著)」という著書がありますが、著者が約200件の判例を調べたところ、「最高裁では8割」が「下級審でも7割」が正当事由を認めていることが分かったのです。
ただし、この判決までに至った事例には特徴があり、それは、ほとんどが東京で、居住用より事業用が圧倒的に多い、ということです。
その理由は、2つの要素ともに、立退き料が高額になるので和解が成立しにくいことが挙げられます。
実際に起きる立退き交渉には、居住用も多いし、地域にも大きな差はないと思われますが、話し合いや、裁判所の和解の勧告によって解決されているので、判例として残っていない、ということでしょう。
このように話し合いで解決することが最良ですが、この判例の傾向は、交渉するときの大きな参考になります。
裁判所が正当事由として最も重要視するのは「家主と借主のどちらの必要性が強いか」ということです。
それ以外にも重視される要素はありますが、それらは付属的に考慮されます。
そして、「立退料」が補完要素として登場します。
家主の正当事由が認められるとしても、無条件ではなく、立退料の提供が条件となることが多いのです。
たとえば、「家主の自己使用」という理由で解約を希望した場合、一概(がい)に、「認められる」とか「認められない」というものではなく、双方の事情を勘案して、裁判所は事案ごとに判断しています。
もし認められるときでも、立退き料との引き換えが求められる事が多いのです。
解約の理由が、「家主の身内が使用する」とか「家主の経済的理由による」とか、今回のような「建物を解体して建て替える」ときでも同じです。
特に、理由が解体の場合は、老朽具合の専門家の判断や、修繕では経済的な合理性がないことや、再利用の具体例などの「証拠」が必要になります。