賃貸部門は、
仲介業務と管理業務に担当が分かれている会社が多いと思います。
前に社内で「我々のお客様は誰か?」という議論になったとき、
仲介の担当は「当然にお部屋を探すお客様。つまり借主さん」と答え、
われわれ管理スタッフは「もちろん大家さんに決まっている」と答えました。
同じ会社で働くスタッフが、
別のお客様に尽くそうと考えているのは面白いと思いました。
なぜか?というと、大家様と借主さんは、
利害が対立しているところがあるからです。
大家様は「なるべく高く貸したい」と思い、
借主は「少しでも安く住みたい」と考えます。
大家様は「なるべく経費は節約したい」と思い、
借主は「同じ賃料なら便利な設備や綺麗な空間がよい」と考えるからです。
では、
われわれ管理スタッフは、大家様の利益を代表する者として、
利害関係にある借主さんと向き合うべきなのか、
と議論が煮詰まってしまいました。
実は、その答えは「テナント・リテンション」という考え方にあります。
テナント・リテンションのテナントとは「借主」の意味で、
賃貸住宅なら入居者さん、
店舗や事務所なら事業者さんのことです。
リテンションとは「保持する」という意味なので、
この言葉を訳すと「借主が賃借する目的が快適に達成でき、
かつ永く活用してもらうこと」となります。
一見すると借主尊重で大家様は二の次のように思えますが、
大家様が賃貸経営で収益をあげる条件と、
このテナント・リテンションは同じ方向を目指しています。
つまり借主の満足が大家さんの事業成功のひとつの条件となるのですね。
となれば、大家さんの利益のために、
大家さんのお客様である借主の満足に尽くす、
という考えに矛盾がなくなります。
これが賃貸管理における「テナント・リテンション」の重要性です。
ただし、すべての賃貸管理にその精神が宿っているか、
と言うと、そうではありません。
残念ながら、
「賃貸管理とは、大家様の仕事を代行するだけの業務」
と捉えている賃貸管理が少なくありません。
その違いは、
賃貸管理の細かな部分でいくつもみることができます。
では、私たちの賃貸管理の、
どこにテナント・リテンションの精神が宿っているのでしょうか?
たとえば「クレーム対応」という、
賃貸管理でも重要な業務があります。
普通に考えれば、現場で処理をして、
借主がクレームを言わなくなったところで業務終了です。
しかしテナント・リテンションでは、
このクレームの再発防止を考えます。
トラブルが起きないことが借主の最善なわけです。
トラブルを一刻も早く解決すると同時に、
その防止策を講じます。
たとえ防ぐことが難しいトラブルでも
被害を最小にすることを目指します。
もうひとつ、トラブルを解決する過程で、
借主に「ここまでやってくれるのか」と感心させる行動がとれないか、とも考えます。
実際にトラブルが起こらなければ、
トラブル対応力を知っていただけないからです。
トラブルによって借主さんに感謝されたら、
それこそテナント・リテンションだと思います。
更新契約にも、
テナント・リテンションの精神があります。
私の会社の地域は、2年ごとに更新契約をする慣習ですが、
普通に考えれば更新通知を郵送し、合意文書を取り交わし、
更新料などの入金を確認して業務終了です。
しかし、良い借主さんほど、2年間、
一度も応対する機会がないものです。
家賃滞納はもちろん、トラブル元になることも、
クレームを言うこともなく過ごしていただいた借主さんです。
このような借主さんには永く暮らしていただきたいですよね。
更新契約という、
せっかくの機会なので、2年間の感謝を伝えて、
不具合や要望などを確認する時間として活用したいのです。
「更新とは、2年に1度、更新手数料がもらえるイベント」
と考えるのは昔の賃貸管理です。
建物と設備のメンテナンスも、
賃貸管理の重要業務のひとつです。
目的は、大家様の物件価値を少ない費用で維持し、
入居率と賃料条件を高く保つことですが、
それには借主さんの満足が不可欠になります。
経年劣化した設備が故障したら、
生活に支障をきたす借主さんが不満を抱えます。
定期点検で設備の不具合を見つけ、
故障する前に処置するのは、
大家様の費用負担を少なくするだけでなく、
借主の不便を未然に防ぐテナント・リテンションになります。
共用スペースを綺麗に保つのも、
自転車置き場を整理するのも、
エントランスを草花で彩るのも、
すべて同じ考えに基づくものです。
物件の築年数などによって
家賃やターゲット設定は異なりますから、
一様に顧客サービスを最上とすることが正解ではありません。
あくまでも、われわれ管理スタッフのお客様は大家様、
という大前提を忘れないで、
借主さんに満足してもらえる賃貸管理を目指しています。
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