中国、韓国、米国の最新の不動産事情をみながら、
日本の賃貸住宅経営への影響を考えます。
「中国不動産バブル崩壊」、影響は限定?
中国の大手不動産企業、碧桂園(カントリー・ガーデン)が資金調達に苦しみ、
事実上の破綻状態とも言われています。
中国全体の経済が厳しい中、
特に不動産市場は新築住宅の販売も思わしくなく回復の兆しは見えません。
中国メディアでは、日本のバブル崩壊を引き合いに出して、
長期の不景気に陥る可能性が示唆されていて、
日本でも「中国不動産バブル崩壊か?」の報道を目にします。
日中の経済的な繋がりを考えれば、
日本への影響も懸念される事態と言えそうです。
しかし、今のところ中国政府は未完成物件の引き渡しを優先し、
デベロッパーが倒産しないようサポートしていて、
不動産市場が急激に崩れる可能性は低いと考えられているようです。
さらに、中国の銀行の不動産業者への貸し出しは、
全体に占める割合がそれほど高くないため、
金融システムへの大きな影響は限られているようです。
日本が90年代に経験したような、
金融機関による貸し渋りや貸し剥がしによるダメージは、
今のところ予想されていません。
この辺りは「日本の失政に学んでいる」と言えるのかもしれません。
韓国のマンション市場も急ブレーキ
中国ほどは報じられませんが
韓国の不動産市場も急速に冷え込んでいます。
日本の日銀にあたる韓国銀行が、
2020年に0.5%だった政策金利を、
2023年までに3.5%まで引き上げたことで、
住宅ローンの金利負担が急増し不動産投資に急ブレーキがかかり、
マンション価格の下落を招く結果となりました。
また、韓国独自の仕組みである「チョンセ」を活用した
ギャップ投資(住宅価格とチョンセ価格(保証金)の差額だけで
物件を購入するもの)も立ちゆかなくなってきました。
政府は税制緩和などの対策を打ち出していますが、
今後も不動産価格の下落が続くと予測する声が多く市場は不透明です。
ただ韓国と日本との経済的な結びつきは、
半導体や観光などの一部に限られているので、
中国や米国の不動産不況と比べて、
我が国に与える影響は少ないと思われます。
深刻なアメリカ不動産市場の劇的な変化
より深刻なのは、アメリカの商業用不動産市場ではないかという声もあります。
海外の調査機関によると、
2022年4月から2023年8月の1年4カ月で、
アメリカの商業用不動産の価格は16.5%も下落したそうです。
これほどの下落はリーマンショック以来ですが、
まだ下げ止まりにはほど遠く、
今後も下落が続く可能性が予想されています。
特に顕著なのはオフィス物件で31%も価格が下落していますが、
これには、コロナ禍で普及したリモートワークが影響しているとされています。
全米の労働者の10%以上が、
1週間で1度もオフィスに出社しない完全リモートワーカーとして働いているとされ、
さらに3人に1人が自宅勤務とオフィス出社を併用しているそうです。
日本より早くコロナの影響から脱したアメリカですが、
企業はオフィス面積を減らし続けています。
コロナの影響を超えて「オフィスで働く」という
考え方に大きな変化が起きているとみられています。
ちなみに、自宅で買い物するネット通販の需要が増加していることもあり、
倉庫物件の価格は8%の下落にとどまっています。
商業用不動産の下落の影響は不動産市場に留まらず金融機関にも及んでいます。
特に地方銀行(中堅・中小銀行)では
不動産向けの融資割合が20%以上もあるので、
もしも不動産が不良債権化すれば銀行自体の経営への影響は避けられないでしょう。
さて、このような海外の不動産市場は日本にどう影響するでしょうか?
まず、安全な投資先を求めて
日本の不動産市場にマネーが流れ込む可能性があります。
さらに執筆時点で1ドル=150円台まで円安が進んでおり、
世界的には日本の不動産は割安と見られている点も見逃せません。
都心のマンション価格はバブル期を超える高騰を見せていますが、
アメリカや中国の不動産市場に留まっていたマネーが
日本市場に向かえば不動産価格はさらに上昇するでしょう。
一方でアメリカの不動産不況が金融市場に
深刻なダメージを与えるようであれば世界的な不況になる可能性もあります。
仮にリーマンショックの再来になれば日本の景気悪化も避けられず、
法人契約の解除や家賃滞納が増加するなどの影響もあるでしょう。
また金融機関が融資を厳格化することで不動産価格が急落する可能性があります。
物件の売却が困難になる一方で、
物件を買える原資が用意できる投資家にとっては安く物件を手にするチャンスになります。
遠い海外の不動産事情ですが、
日本の経済や不動産、さらに賃貸経営に与える影響はゼロではありません。
今後も注意深く見ていく必要がありそうです。