春から秋までの繁忙期の合間は、
入居者さんの満足感を高めることと、
建物・設備のメンテナンス業務が、
管理スタッフにとって重要な仕事になります。
今回は、メンテナンスの理想形についてレポートいたします。
アパートや賃貸ビルには、
住宅設備や共用部の施設、外壁や貯水槽、
外階段、屋上など、様々な部位があり、
それらはすべて「老朽化・故障」という宿命を負っています。
40年50年の賃貸経営で修繕や取替えが不要な部位はほとんどない、
といって過言ではないでしょう。
この場合、壊れた時に交換すればよいのか、
壊れる前に察知して修繕する方がいいのか、
ということになりますが、
私たちの部署では予防医学と同様に、
予防メンテナンスという考え方が重要と認識しています。
それによって、建物設備の寿命の延長、修繕費用削減、
入居者さんの不満蓄積による退去を防げる、と考えているからです。
リクルートが2021年9月に行った入居者アンケートでは、
「引越したいと思った瞬間は?」という質問に対し、
「住んでいる家に不具合が起こったとき」という回答が2位でした
(1位は入学や転勤などのイベント)。
具体的には、「老朽化で給水管が破裂」
「給湯器が壊れてお風呂に入れなくなった」
といった訴えが並んでいて、
想像以上に、設備故障による不便が転居の理由となっていることに驚きます。
これらは防ぐことができる退去といえます。
このような退去が続くと、
入居状況が悪くなるので募集賃料を下げる。
すると新しい入居者の質が下がる可能性があり、
オーナーの収益の悪化を招き、
物件力を上げるための投資ができなくなる、という悪循環に陥ります。
この循環を逆にして好転させる試みが、
賃貸経営の収益を良くすると思っています。
さて、具体的な予防メンテナンスの1つめは
「長期修繕計画と大規模修繕工事」です。
木造、鉄骨、コンクリート造など、
それぞれの建物・設備の部位ごとに、
鉄部塗装は〇年、貯水槽の部品交換は〇年、
外壁塗装、屋上の防水は〇年、のように耐用年数が想定できます。
この想定の元に修繕計画を用意することで、
定期的に目視検査をして、
工事の最適なタイミングを決めることができます。
さらに長期修繕計画には、
工事費用が予想できるので資金が準備できる、という利点もあります。
では、一般の家主さんは、
長期修繕計画にどのような考えを持っているのでしょうか。
2017年3月に国土交通省住宅局が行った調査報告によると、
修繕計画を作成している家主の割合は22.8%、
「作成していない」は44.4%、「わからない」は32.8%でした。
修繕を実施しない理由として、
「資金的余裕がない」が28.1%、
「必要性が理解できない」が22.6%と続きます。
興味深い回答に「自身の考えで実施しない」とあったので、
その考えを確認したところ、
「必要なときに修繕すれば十分」が52.8%、
「実施しなくても入居率は変わらない」が34.7%、
「実施しても家賃水準を維持できるわけではない」が15.3%でした。
建物設備の修繕は、壊れた時に行えばよく、
それは入居率や家賃には影響しない、とお考えの家主さんが多いようです。
この辺りは、私たちの認識とは違うな、と感じています。
2つめの具体策は「定期巡回」です。
修繕計画を立てても、それは予定に過ぎませんから、
実際に工事するかどうかは、現場の状況を見て、
実施を伸ばしたり、前倒しする必要があります。
さらに、修繕計画には含まれないような細かな部位も、
現場の巡回点検によって異常を見つけることができます。
3つめは「日常清掃」です。
生活スペースが綺麗に整頓されていることが、
入居者さんの満足感を高めるのはもちろんですが、
共用部分やエントランスなどで、
定期巡回項目にもないような小さな変化を発見することもできます。
私たちの身体でも、疾患の早期発見や、
病気を予防する生活習慣が大切なことは誰でも知っているでしょう。
しかし、その理解度不足や経済事情などで
実行できていない実態もあると思います。
予防メンテナンスも同じではないでしょうか。
まず、建物設備の部位ごとの耐用年数を知り、
その修繕のための費用を把握して、
その資金の準備計画を考えるところからスタートするのが
良いのかもしれません。