家賃と物件価値のバランスを合わせる、というお話しのときに、
「秤(はかり)の錘(おもり)」という例えを引用しました。
物件の価値を高める、すなわち、
左側の錘(おもり)を重くする方法の中に、
リフォームの提案があります。
リフォーム提案といいますと、
床や壁や天井を新しく貼り替える、
キッチンや洗面台など水回りの設備を取り替える、
人気の生活設備を新設する、
あるいは人気のない和室を洋室に替える、
などの方法をすぐに思い浮かべるでしょう。
これらの方法が左側の錘(おもり)を重くすることは間違いありませんが、
かけた費用の分、右側の錘(おもり)が重くなるかどうかは保証されません。
つまり、費用対効果が合っているかどうかは分かりません。
また、その効果はいつまで続くのか、
投下した資本は回収できるのか、
という疑問も残ります。
そもそも、誰でも簡単に思い付く方法ですので、
同じような物件が多く存在することになるかもしれません。
そこで、
もう少し費用がかからずに、
費用対効果の望めるリフォームを検討してはどうでしょうか。
安価で効果のあるリフォームなら、
管理大家さんは提案を受け入れてくれるでしょうし、
まだ取り引きのない大家さんへの提案にも説得力があります。
なぜなら、このような提案は誰もしてくれなかったからです。
では、
取り引きのない大家さんを訪問したと仮定して話を進めてみます。
まず「管理の話を聞いてください」ではなく、
「空室を見せてください」という入り方の方が受け入れられやすいです。
そして部屋を見せて貰ったときに、大がかりなリフォームではなく、
賃貸業者のプロとして気になったところを指摘するのです。
たとえば、女性のお客様をお部屋に案内すると、
色々なところを手で触れようとします。
ドアを開ける。
クローゼットを開く。
スイッチを押す。
そのときに、
ドアノブが汚れていたり、
エアコンのリモコンが割れていたり、
スイッチプレートが変色していたり、
キッチン照明の紐が手垢まみれだと、大きなマイナスポイントになります。
そのお客様に「なぜ決めないのか」と尋ねてみると、
「気になった点」を語ってくれることがあります。
それを聞くと、「それなら簡単に直しておけたのに」と思うことも多いはずです。
この、
ドアノブが汚れている、
スイッチプレートが変色している、
キッチン照明の紐が手垢まみれで黒ずんでいる、
というマイナスポイントを、
大家さんは気が付かないのです。
大家さんは、もっと大きな家に長く暮らしています。
その自分の家と比べます。
もしかしたら大家さんの家のドアノブも汚れているかもしれませんが、
毎日見ているので気になりません。
でも、お金を払って、新しく暮らし始めようとする人は、
その汚れが気になるのです。
特に女性は、この汚れに敏感に気づきます。
そのマイナスポイントを大家さんに気づいていただいて、
しかも、それが安価で改善できるなら大家さんは耳を傾けます。
部屋を見せていただいた時に、その場で指摘するのです。
「今まで教えてくれた人はいない」という大家さんが多いはずです。
原状回復とは「元に戻すこと」ではなくなっています。
それは20年以上前の考え方です。
原状回復工事によって、
壁紙や畳や襖が新しくなっていれば良い、という時代ではありません。
それで一見すると、表面的に綺麗には見えますが、
細かい箇所が劣化したままになっているので、
なんとなく「古くさい」イメージを与えてしまうのです。
それが、
ドアノブ、スイッチプレート、水栓具、
クローゼットやキッチンセットの扉を開けた中の部分、
露出している配管 などです。
これらは築10年を過ぎたら、原状回復のたびに、
少しずつ取り替えていくべきなのです。
大家さんはご自分の物件しか見ていませんので
20年の間に変化した原状回復の「いま」を知らないのです。
たとえば、ひとつの提案事例を考えてみます。
古い物件や決まらない物件は収納スペースが不足していますが、
それを解消するために面積を広げることはできません。
しかし、よくみると、余っているスペースが見つかるので
それを活用して収納スペースを多くすることができます。
たとえば和室を洋室に替えたお部屋は、
押入をクローゼットに替えています。
和室の押し入れは奥行きが約90cmあります。
布団を入れるために必要なスペースです。
借主さんは洋室のクローゼットに衣料ケースを使いますが、
奥行きのサイズは70cmくらいです。
つまり20cm余っているコトになります。
ここに、洋服をかけるためのバーを、奥行き90cmの真ん中につけると、
洋服をかけても、奥と手前で10cmずつ余分な空間が生まれています。
それを活かすために、バーを10cm手前につけることで、
奥に20cmのスペースが生まれます。
ここに奥行き20cmの、簡単に付けられる棚を設けると、
かなりの収納量が生まれます。
そのクローゼットの扉を開けたお客様は目を見開きます。
さらにクローゼット内の壁に花柄などの綺麗なクロスを張っておくと、
開けたときに歓声をあげることもあります。
それでも、かかる費用はわずかです。
こんな提案をされると大家さんも興味を示しますし、
安価で出来ることを伝えると「ぜひやろう」となります。
実際に、築年数が古く、家賃がそれなりに安い物件で、
クローゼットの内部がこのようになっていると、
かなりの差別化となるはずです。
つぎは、
使われていないスペースを活用するローコストのアイディアです。
人気の無い物件にも、空いているスペースを多く見つけることができます。
その代表的なのは洗濯機置き場の上のスペースです。
昔は洗濯機の上には乾燥機を置いていましたが、
現在は全自動の乾燥機能付きが主流なので、そのスペースは空いています。
そこに棚をつけると、洗濯洗剤などが置けて便利です。
さらにハンガーを引っ掛けることができるバーがあると、
一時的に洗濯物をかけることができてとても便利です。
玄関にある下駄箱の上も空いていることが多いです。
本当は天井まで一体になった下駄箱に取り替えましょう、
と言いたいところですが、費用がかかり過ぎますので、
そこに棚を付けます。
下駄箱に入りきらないシューズを収納することもできます。
トイレの上に棚が付いてない物件も多いです。
棚をつければトイレットペーパーなどを置くことができます。
12個のロールをトイレの床に置いたままにしなくて済むのです。
クローゼットの扉の内側にバーを付けることで、
S字フックをかけて色々なものを掛けることが出来て便利になります。
マンションの洋室で梁が出ている部屋の場合は、
梁の下にバーを付けることで洋服などを掛けることができるようになります。
その部分を模様のあるカラフルな壁紙に替えると、
あきらかに収納スペースだと分かるオシャレな空間になります。
たとえば6畳の部屋をリフォームして収納スペースを作ると、
間取り表記が5畳とか5.5畳となってしまうのですが、
この方法なら収納スペースを増やしたのに6畳のまま表記できます。
しかも格段にオシャレに見えます。
キッチンセットや洗面台の古びた表面は、
リアテックやダイノックなどのシートを貼ると生き返ります。
費用も高くありません。
古くなったユニットバスの壁にも、
これらのシートと大きめの鏡を貼ることで、
ホテルの浴室のようなイメージに生まれ変わります。
アクセントクロスを部屋の壁だけでなく、
通路の天井やトイレの壁やクローゼット内の壁に貼るのも効果的です。
その他にも、
掃き出しのサッシの枠に室内物干しユニットを取り付ける。
玄関の空いている壁にカガミやコート掛けを取り付ける。
薄く錆が見え始めた水栓をシングルレバーに替える。
など、
「あったらいいな」を形にするのです。
以上のような、
費用対効果の高いローコストリフォームはアイディア次第です。
「何を提案すれば良いか」を考えるより先に、
「大家さんにローコストリフォームを提案しよう」と決めることです。
そうすればアイディアのヒントはお客様が教えてくれます。
管理物件の空室対策に、
まだ取り引きのない大家さんへの最初の提案に、
ローコストリフォームの提案を活用してください。
【空室対策編④】ローコストリフォームを提案する への1件のコメント